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暴れん棒将軍
官能リレー小説 - 時代物

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暴れん棒将軍 27

 雅は、家虎の点てる茶をいただいた。
 しばしとりとめのない季節の話題で談笑すると、家虎は急に態度を改めて引き締まった顔つきになった。
「どうだ、もう一服付き合わぬか?」
「は、いただきます」
 家虎は茶を点てながら、ようやく話の核心に触れ始めた。
「今から話すのは、俺の独り言だ。そう思って聞いてくれ」
 その態度を見て即座に雅は、
(いよいよ来るな…)
 と思い当った。
 そもそも、武者修行中だった雅のところに突然書状がきて主君に呼び出されたのだ。余程の密命に違いない。
 雅はぐっと身構えた。
「江戸で聞いた噂話によると、下町には『遊び人の竜さん』と呼ばれる人気者がおるそうな。素性は不明だが、粋でいなせな男で弱き者の味方、時には悪人を成敗したりすると言う。だが、この男はある日、辻斬りに襲われて命を落とす。ところが時を同じくして、将軍・家竜が病に倒れた。家竜は病状芳しくなく、そのまま世を去った。不幸なことに家竜には世継ぎがいない。継承問題が持ち上がった。そこで尾州徳川家から新しい将軍が選ばれ、世は丸く収まったという…。どうじゃ、わかったかの?」
「はっ!」
 雅は引き締まった表情で家虎の出す碗を受け取ると、ぐいっと一気に飲み干した。
「けっこうなお手前で。それでは私は失礼いたします」
 そのまま雅は茶席を立った。

 城下の柳生屋敷に戻ると、そこには父・柳生厳轍が待っていた。
「雅か。こちらへ参れ」
 家来に人払いが命じられた。雅は奥の間に通され、父と二人きりで向き合う。
「上様のお話はしかと聞いたか?」
「はっ!」
「お前の剣の腕を見込んで直々のご下命じゃ。一命に代えても成し遂げるように」
「ははっ!」
「ではお前を破門する! そして親子の縁を切る。勘当じゃ! 只今この時より、お前は尾張柳生一門ではなく、親でもなければ子でもない!」
 厳徹は厳しい表情で言い放った。
 現将軍を暗殺せよとの密命は決して余人に知られてはならない。決死の暗殺行となる。
 万が一ことが露見した時に尾州徳川家に累が及ばぬよう、細心の注意をもって遂行しなければならない。
 そのための非情、ともいえる措置であった。

「お前は既に柳生の者ではない。かつてお前に課した戒めも無きものと考えよ。今こそ、その眼帯を外せい!」
 雅は正座したまま頭の後ろに手をやり、右目に当てられていた眼帯をゆっくりと外した。
 露わとなった雅の右目。
 その虹彩は非常に明るい茶褐色…というより金色に近い。『金銀妖瞳』とも呼ばれる虹彩異色症の一種である。
 鍔迫り合いの際、雅にこの瞳で睨まれると、よほどの兵でも射すくめられて簡単に打ちすえられてしまう。
 天狗や狐や神隠しが真面目に信じられていた時代の話である。
 『柳生の姫様は邪眼だ』等とあらぬ噂を立てられることを嫌った厳徹がそれを封印させたのだ。
 この十年というもの、雅は起きている間は常に眼帯をつけて過ごしていた。その封印が今、解かれたのだ。

 厳徹は立ち上がって後ろの違い棚に置いてあった衣装箱を取り出すと、雅の前に置いた。
「これは一体…?」
「いいから、開けてみよ」
 箱を開けると、中から一振りの脇差と緋色の派手な襦袢、三寸幅の長いさらし布が入っている。
 襦袢はやたらと丈が短く、半襦袢に近い。腰まで届くのがやっとだ。特別にあつらえたもののようだった。雅は正直、こんなものを着ている自分を想像できなかった。
「雅よ、家竜と戦う時はその襦袢を着て太腿を見せよ。奴は無類の女好きだという。それを利用するのだ!」
「しかし、それは…!」
「たしかにお前の剣は凄まじい。しかし己が『女』であることを認めず、『男』になり切ろうとする。そこが危うい。お前が恥じらいを捨て『女』をさらけ出せば、向こうも『男』を剥き出しにするだろう。そこに生じる隙を突け! 自らの『女』を利用するのだ。そしてその脇差。無銘ながら業物じゃ。密命を果たせなんだ時には、その刀で自害せよ!」
「ははっ!」
「…雅よ。もし見事ご下命を果たして戻ってきた折には、しかるべき婿を取って尾張柳生家の家督を継ぐことを許す…と上様は仰られた」

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