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暴れん棒将軍
官能リレー小説 - 時代物

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暴れん棒将軍 115

「むむ。それは危ない! あの天草次郎時宗とか申す者、尋常ならざる妖力を持っておる。ほっておけばとんでもない災いが起きるぞい!! 何とかして奴らの企みを阻むのじゃ!!」
 藤兵衛が叫んだ。
「しかし父上…。我らは一体どうやって戦えば良いのですか? おもてなし武将隊は、我らをはるかに凌ぐ腕前の持ち主。先日の戦いでそれを痛感いたしました」
 と、大二郎。
「悔しいけど、今のあたいらじゃ奴らに勝てないよ…」
 ぽつりと楓が呟いた。
 静まり返る一同。それは誰もがわかっていたことだ。
「…あの時、私は見たのです」
 それまで押し黙っていた雅が突然、口を開いた。

「十姫に着物を切り裂かれて、辱めを受けた時…。私は自らの戒めを解き、眼帯を外しました。私の金瞳で敵を金縛りにしようと思ったのです。しかし敵にはまったく通じませんでした」
 雅を見つめる一同。
 視線を受けた雅は少しだけ頬を染めていた。
 全身を切り裂かれてプライドを傷つけられ、舞台の上で素っ裸にされた時の身を焼くような恥辱を思い出し、怒りと羞恥がこみ上げているのだ。
「その時、私の金瞳にはおもてなし武将隊の面々の背後から、うっすらと影のようなものが立ち上っているのが見えたのです。それぞれ、血まみれの悪鬼の如き表情をした男たちでした。あれはきっと宮本武蔵ら剣豪たちの亡霊に違いありません! あの素早さ、異常な膂力は亡霊が力を貸しているのです!!」
「…………」
 雅の告白を聞いて押し黙る一同。
「幽霊が相手では斬ることも出来ぬ…。我らは手も足も出ませぬ」
「そうだね…。あたいの忍術も通じないよ…」
「お前たち、何を弱気なことを言うとるんじゃ!! しっかりせい!! 相手が亡霊なら成仏させてしまえ!!!」
 と、藤兵衛の一言。
「おい爺…。じゃあ、あいつらをどうやって成仏させるんだ? 念仏でも唱えるか? 身体にお経でも書けっていうのか?」
「うう…そ、それは…。わしにもわからん!! じゃが、きっと何か方法があるはずじゃ!!」
 その時である。
「…上様。私の帰依している丞観寺の天覚坊隆慶様に相談してみたら如何でしょうか? 隆慶様は御歳九十六、既に住職を退いて隠居の身ですが、霊験あらたかな高僧です」
 恐る恐る口に出した飛騨守の言葉に皆が目を見張った。
「ふぅん…。その坊さんなら亡霊を何とかできるのか? だが、俺たちが迂闊に動いて家虎の野郎に気づかれるのはまずい。とっとと使いを出してその坊主を連れてきな!!」
「はは〜っ!! さっそく使いを出しまする!!」
 家竜の言葉に飛騨守は平身低頭で答えた。

 そして夜半。
 天覚坊隆慶は、数人の供をつけただけのお忍びで飛騨守の屋敷に現れた。
 家竜らの前に現れた天覚坊は小柄で痩せた体躯、長く真っ白な眉と顎髭、そして肩まで届こうかという恐ろしく大きな耳の持ち主だった。
「ほっほっほ。飛騨守や、年寄りをこの真夜中に呼びつけるとは、よほどの一大事らしいのう…?」
 奥座敷に通された隆慶がこう言うと、飛騨守は両手をついて頭を垂れた。
「此度の事は何分急を要すため、失礼をわきまえずお呼び立てした次第。隆慶様、まことに申し訳ございませぬ!」
「おう、霊験あらたかな高僧ってのはあんたか?」
「こりゃ家竜!! 何じゃその言い草は!! もそっと行儀よくせんか!!」
 家竜のあまりに無作法な物言いに藤兵衛がたしなめる。
 隆慶に付き従う筋骨逞しい僧が、その言葉を聞いてじろりと家竜を睨んだ。
「ほっほっほ…。わしに用があるのは飛騨守、お前さんじゃのうてこの生意気な若侍らしいのう。お主、名は何というのじゃ?」
「おう。聞かれて名乗るもおこがましいが、江戸の下町辺りじゃあ評判の、粋でいなせで女にモテる遊び人の竜さん、または旗本の三男坊・家田竜二郎…。だが、そいつは仮の姿。泣く子も黙る八代将軍・徳川家竜たあ、俺のことだ!!」
「ほう。近頃、尾張の殿様と何かと張り合っておる大人気ない公方様じゃったか。どうりで口の利き方を知らんわけじゃ。で、その公方様がわしに何の用じゃ?」

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