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暴れん棒将軍
官能リレー小説 - 時代物

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暴れん棒将軍 114

 半刻ほど後、奥座敷に戻った家竜の前にはご馳走が所狭しと並べられていた。
 名古屋名物ひつまぶし、きしめん、ういろう、『エビフラーイ』、『ミソカーツ』と呼ばれる南蛮渡来の揚げ物まで。
 手当たり次第にガツガツと食い漁る家竜。箸など使う余裕はない。全部手づかみだ。
 大怪我をしたというのによくこれだけの食物が入るものだと感心するほどの食べっぷりである。
「んがぐぐぐ…っ!!」
 飯を喉に詰まらせた家竜は真っ青な顔で胸を叩く。
「無理じゃ家竜! そんなに詰め込んでも胃が受け付ける訳が無い! 皆吐いてしまうぞい!!」
「…むぐっ!!」
 家竜は藤兵衛が脇から止めようとする手を払い除ける。
 そして両手で口を押さえると、そのまま布団にばったり倒れ込んだ。
「もごもごもご…」
「『食ったからもう寝る』と、言うとる。まったく呆れた男じゃわい…」
 藤兵衛がやれやれ、といった風に肩をすくめた。

 そして話は再び現在に戻る。
 ここは名古屋城の大天守閣にある大広間である。

「オンバサラカサアギニウムカク、オンバサラケイトアギニウヒタラ、オンバサラテイジャアギヌムアン!!」
 一心不乱に御真言を唱え続ける天草次郎時貞。
 愛染明王の象を前に、祭壇では護摩の火が焚かれている。
 燃え盛る炎を前に滝のような汗を流して白目を剥き、凄まじい形相だ。
 これは幕府によって弾圧され廃絶したはずの、真言立川流の儀式である。
 彼の後ろでは数十名の男女が交合を行っていた。
「ああああんっ!!」
「うおおおおお!!!」
 六尺褌を締めた筋骨たくましい男どもが薄衣だけを身にまとった女と対面座位で激しく睦み合う。
 そして、そんな異常な光景を嬉々として見つめている家虎。
(ふっふっふ…。これで江戸の奴らをあっと言わせてやる!!)
 手にした盃をぐいっと飲み干すと、その目が不敵に輝いた。

 事の発端はこうである。

「…家虎様。私に七日ほどお時間をいただければ、幕府をひっくり返して殿を将軍の座につけてごらんにいれまする!!」
「何っ?! それはまことか?」
 名古屋城の二之丸庭園で二人きりで散策中、天草次郎時宗は家虎に言った。
 そして恐るべき陰謀を告げた。

 まず、時宗が真言立川流の秘儀を行い、七日七晩祈りを捧げ、富士山を噴火させる。
 その未曾有の噴火は江戸にも大地震を引き起こす。
 江戸では多数の死傷者を出して阿鼻叫喚の地獄絵図となるだろう。
 そこで家虎が大軍を率いて駆けつけ江戸城に入城し人々を助け、江戸の再建に務める。
 家虎の声望が高まったところで、かねてから働きかけていた朝廷より新たな将軍宣下を受ける…という壮大な計画であった。
 この話に家虎は一も二もなく乗った。

 ただし、この計画にはひとつ大きな弱点がある。
 この秘儀の最中、次郎時宗は名古屋城天守閣より一歩も外に出ることは叶わず、不眠不休でひたすら続けなければならない。
 当然、時宗は無防備な状態となるので厳重な護衛が必要だ。
 これにはおもてなし武将隊の一人・武姫があたる。
 さらに万全を期すため、計画の障害となりうる江戸の紀伊・水戸の藩主や幕府要人を相次いで暗殺する必要がある。
 これはおもてなし武将隊の残る四人・小姫、舜姫、十姫、半姫が江戸に急行し、その役目を果たす。
 家竜の生死も不明なまま、おもてなし武将隊を二手に分けなければならないのも気がかりな点ではあった。
 しかし、家虎はその一世一代の大博打に打って出る決意を固めたのである。

 一方、こちらは筆頭家老・安東飛騨守の屋敷。
 名古屋城から帰宅した飛騨守が家竜らに重大な報告をしていた。

「家中で不穏な動きがございます。本日、家虎さまから内々に挙兵の準備を整えるようにとのご命令がありました。出陣は八日後の朝、兵一万を率いて江戸に向かうおつもりです」
「何だって? あの野郎、本当に江戸で戦をおっぱじめるつもりなのか? まったく呆れ返った野郎だな」
 超人的な回復力で傷を癒しつつある家竜は、その言葉を聞いて眉間にシワを寄せた。
「しかも家虎様と時宗は、怪しい男女と共に天守閣にお篭もりになります。七日の間、余人は決して立ち入らぬようきつく申し付けられました。何か儀式を行っている様子でございます」

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