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暴れん棒将軍
官能リレー小説 - 時代物

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暴れん棒将軍 116

「坊さん、俺にそんな口の利き方をするとはあんたも度胸があるな。俺が頼みたいのは他でもねぇ。夢乃屋一座の看板芸人・おもてなし武将隊が亡霊に取り憑かれてるんで、そいつらを何とか成仏させてやって欲しいんだ。あいつらがいると、家虎の野郎とサシで勝負出来ねぇ」
「ほっほっほ…。何だそんなことかえ。それならわしが三日三晩経を上げて念を込めた数珠でも作ってやるわい。相手の首にかければ、どんな悪霊であってもたちまち成仏するじゃろう」
「おう、やってくれるか。そいつはありがてぇ。この家竜、礼を言うぜ!! ところで坊さん、武将隊の奴らは亡霊のおかげで揃いも揃って剣の達人でな、迂闊に近づけねぇ。頼みついでだ、何かいい知恵はないか?」
「他人様におんぶに抱っこで偉そうに何を言うとる。そのくらいのこと、自分で知恵をひねって考えるんじゃな。わしがしてやれるのは数珠くらいじゃ」
「ちっ。ケチな坊さんだな。じゃあもう一つ教えてくれ。武将隊の親玉は天草次郎とか名乗る奴で、とんでもない妖力を使いやがる。そんな化け物を上手く叩き切る方法を知らないか?」
「何じゃ、今度は坊主のわしに人殺しの方法を聞くのか? お前さんも大概じゃのう。そんなに魔物が恐ろしければ、熱田神宮に神体として祀られておる天叢雲剣(あめのむらくものつるぎ)、すなわち草薙剣(くさなぎのつるぎ)でも借り出してくるんじゃな。何ならわしから熱田神宮に掛け合ってやっても良いぞ?」
「じゃあ坊さん、ついでにそいつも頼むぜ!」
「よかろう。そのくらいの頼みなら聞いてやろう。まったく虫のいい公方様じゃ。用はそれだけか? もう夜も更けたし、そろそろわしは帰るとするか。ほっほっほ…」
 隆慶は無礼極まりない家竜の口ぶりを怒るでもなく二つ返事で引き受けると、そのまま席を立って出て行った。

「…何だありゃ? 随分と妙な坊さんだな。怒ったのか?」
 家竜は狐にでもつままれたような心持ちで呟いた。
「いえ、もし本当にお腹立ちなら、口さえ利かないでしょう。それどころか、上様は隆慶様の放つ気合でその場に昏倒している筈です。隆慶様は鋭い眼力の持ち主でございます。ああ言ってはいても、大分に上様のことがお気に召したようで…。そうでなければ、ああも簡単にお引き受け下さいますまい」
 飛騨守は平伏したままで言った。
「これで問題の大半は解決したとして、じゃ。猫どもの首にどうやって鈴を付けるか? そちらの相談に移った方が良さそうじゃのう」
 藤兵衛が横から口を出した。
 と、その時である。

「そういう仕事なら、私共にお任せ下さい」
 天井から声が聞こえた。
「むっ! 何奴じゃ?!」
 藤兵衛が身構えると、天井の板が外れて音もなく一つの影が降り立った。
「この男は我が尾張藩隠密衆の頭領、霞の又八にございます」
 柿渋染めの忍び装束に身を包んだその男。
 覆面の下から酷薄そうな薄笑いを浮かべ、ただならない雰囲気を発散している。
 又八は片膝を立ててかしこまると口を開いた。
「上様。私に良い考えがございます」
「おう。お前があの芝居小屋から俺たちを助けてくれたんだな? 礼を言うぜ」
「上様から直々にお言葉を賜るとは、まことにありがたき幸せ。事の仔細は、まずお仲間を集めて打ち合わせの時に…」
 家竜はパンと手を叩くと次の間に控えていた楓・雅・大二郎を呼び、そのまま作戦会議を始めることとなった。

「上様。私に良い考えがございます。まずはこれをご覧くだされ」
 皆が揃うと、又八がおもむろに懐から何か取り出した。
 掌に乗っていたのは金属製の輪である。
「んっ、何だこれは…。お前、この輪っかを一体何に使うつもりだ?」
 家竜が怪訝そうに聞いた。
「見ての通り、鉛で出来た輪にございます。上が蝶番になっておりまして、一度腕や足に嵌め込むと錠前のようにカチリと閉じて鍵がなければ開けることはかないませぬ」
「そうか! わかったぞい! お前、これを沢山用意しておもてなし武将隊の奴らに一泡吹かせてやろうという魂胆じゃな?!」
 ポンと手を打った藤兵衛が叫んだ。
「なるほど。こいつで奴らの足を止めて…その隙に俺たちが首に数珠をかける…と、こういった算段だな?」
「ご明察にございます。例えきゃつらが並外れた膂力や機敏さを持っておりましても、この重い鉛の輪を幾つも取り付けられて素早く動けましょうや? 出来ますまい。武将隊の動きは我らが止めてみせましょう!」
 家竜の問いに又八が力強く答える。

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