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暴れん棒将軍
官能リレー小説 - 時代物

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暴れん棒将軍 113

 凌雲は医者らしく立派な身なりはしているものの、小男で目つきが悪い。
 あまり風采の上がらぬタイプである。
「おう。あんたが俺の命を救ってくれたのか。礼を言うぜ」
「…ご禁制の蘭学書で学んだ技術を使ってな。このわしが蘭学書の輸入を禁止しておるお前さんの命を救うことになるとは皮肉なものじゃ」
「………」
「凌雲先生は、口は悪いが腕はたしかなのです。上様、どうかお許し下さいませ」
 むっとする家竜を見て飛騨守が脇から必死にとりなした。
「刀がもう少し左にそれておれば、心の臓を貫かれておったところじゃ。もしそうだったら、このわしでも助けられぬ」
 凌雲はつまらなそうに呟くと、ぷいと横を向いた。
「まぁいい。それより、珊瑚は何処だ? 珊瑚に会わせろ」
 家竜が珊瑚の名を出すと皆下を向いて押し黙る。
「おい! どうなんだ? 珊瑚は無事なんだろうな?!」
「たしかに無事じゃ。だがしかし…」
 口ごもる藤兵衛にいらついた家竜は叫んでいた。
「ごたくはどうでもいいから、早く珊瑚を連れてきやがれ! …うううっ!!」
 立ち上がろうとしたが、左胸を押さえて倒れ込んでしまう。
 手厚い看護は受けているものの、凌雲の手術からまだ数日しか経っていないのだ。
 身体がまともに言うことを聞くはずがない。
「家竜、まだ起きてはならん! お前は一番の重傷なのじゃぞ!!」
「う…うるせぇ。爺ぃ、珊瑚を連れて…来れないなら…俺を…珊瑚のところに…連れて行きやがれ…」
「上様っ!! 大丈夫? まだ寝ていなければ駄目よ!!」
「とにかく…連れていけ…」
 真っ青な顔で途切れがちに言う家竜を見て、飛騨守が叫んだ。
「おおい! 早く輿を持って参れ! 上様がご所望じゃ!!」
 急いで輿が用意され、家竜を乗せて家来がそれを運ぶことになった。
 家竜が運ばれていったのは、離れにある奥座敷を出てさらに奥に行った裏庭である。
 そこには小さな土蔵がひっそりと建てられていた。

 ギギギギ…ッ。
 土蔵の重い扉が開かれると、奥から獣のような凄まじい呻き声が漏れ出してきた。
「う"う"う"う"う"う"〜〜〜っっっ!!!」
「珊瑚っ!! ど、どうしたっ?!」
 家竜は輿の上で立ち上がろうとしたが、身体が思うように動かない。
 全身の痛みを堪えながらようやく身を乗り出すと、そこに珊瑚はいた。
 板の間の上で寝かされており、扱き帯で手足を縛られている。襦袢は裾も露わにはだけており胸元が丸見えだ。
 股間にはおむつが当てられていた。
 頬はこけ、目は血走り、凄まじい形相で家竜を睨みつけて唸り声を上げているのだ。
 家竜は我が目を疑った。
「な、なんだ…? これは一体どうした? おいヤブ医者! 俺の珊瑚に何かしやがったな?!」
「わしのせいではない。この娘、何か強烈な暗示をかけられておってな…。どうもお前さんを敵だと思い込んでいるようじゃ」
「上様、これは天草次郎の妖術だと思う。凌雲先生は悪くないよ」
「せっかく救い出したというのに、珊瑚ちゃんの暗示が解けんのじゃ。凌雲先生に色々手を尽くしていただいたんじゃがのう…。暴れて手がつけられんので、仕方なしにこうして土蔵に閉じ込めておるのじゃ」
「それに…。珊瑚殿は満足に食事もとりませぬ。お女中たちが苦労してやっとお粥を一口か二口…という程度で、その身体はやせ細る一方…。このままではいずれ…」
「ううっ。可哀想な珊瑚殿…」
「なんだって…?」
 家竜は脳天を叩き割られるような衝撃を感じていた。
「一刻も早く天草を倒すことじゃな。さすればこの娘の暗示は解けるやもしれぬ」
 凌雲の言葉に家竜は言葉を失った。
 自分が気を失っている間にこれほどの事態が起きているとは。
「…家虎の野郎っ!! よくも…!!」
 立ち上がって輿から飛び降りようとしたが、利かぬ身体でそんなことが出来る筈もない。家竜はバランスを崩してその場に崩れ落ちた。
「ち、ちきしょう…!! 血が…血が足りねぇ!! 何かご馳走を持って来い!! じゃんじゃん持って来い!!」

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