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暴れん棒将軍
官能リレー小説 - 時代物

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暴れん棒将軍 111

 藤兵衛は、手に小型の油壷を持っていた。
 その口から油を染み込ませた晒し布が飛び出している。
 言ってみれば即席の火炎瓶だ。
 緞帳の火を使って壷に点火した藤兵衛は武将隊に向かって投げつけた。
「むんっ!!」
 半姫の物干し竿が壷を両断する。
 しかし、飛び散った油は周囲に飛び散って引火した。
 炎は舞台から客席へと燃え広がってゆく。劇場はたちまち火の海となる。
「うわぁぁあ!! 付け火だぁ!!」
「助けてくれ〜っ!!」
 観客は叫びながら蜘蛛の子でも散らすように出口に向かって逃げてゆく。
「見ろ! これを!!」
 藤兵衛が叫んで着物の上半身を脱ぐと、胴巻きに括りつけた火薬が姿を現した。
 こんなこともあろうかと、どこまでも用意周到な藤兵衛であった。
「どうじゃ! ワシと心中したい奴はかかってまいれ!! お前らの剣がワシの身体に届く前に、舞台ごと吹っ飛ぶぞ!!」
 ロウソクを片手に鋭い眼光で睨みつける。
「ううう…」
 その気迫に気圧されてじりじりと後退する武将隊。
「はっはっは!! ならば、この小屋ごと吹き飛んでもらうとするかの!!」
 さえずるような美しい声が突如響いた。
 声の主はそれまで舞台裏に引っ込んでいた天草次郎時宗であった。
 時宗が手を挙げて合図をすると、客席の出口にガチャンと格子が降りる。
「何だこりゃ?!」
「出せっ!! 出しやがれっ!! 俺たちゃ関係ないぞ!!」
 逃げ遅れた観客たちが怒って叫びだした。
 時宗はそんな声を気にも止めず、さらに合図をすると舞台の天井から六本の縄梯子が降りてきた。
 武将隊と時宗が梯子を掴むと、するすると引き上げられてゆく。
 この芝居小屋の天井には屋根へと抜ける抜け穴が開いているのだ。
「家竜よ、さらばじゃ!!」
 時宗たちはそれぞれ火薬玉を取り出して舞台に向かって投げつけた。
 この芝居小屋に仕掛けられたからくりと時宗の用意は藤兵衛以上の周到さだったのだ。
「むっ! まずい!!」
 藤兵衛がそう思った時には火薬玉が爆発していた。

 グワッ!!
 豪音と共に大爆発する舞台。
 衝撃で主柱が折れ、巨大な芝居小屋は炎上しながら崩れ落ちてゆく。
 逃げ遅れた観客や一座の者は瓦礫の下敷きになるか、焼かれて死んでいった。
 夢乃屋一座から出た火は大火となって丸一日燃え続け、名古屋城下の歓楽街を焼き尽くした。
 家竜一行は紅蓮の炎の中へと消えた。
 そして…。

第五章 完

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第六章 最終決戦


家竜失踪から二週間後

「ええい!まだ見つからんのか!」
「は、はい・・・ただ今全力を挙げて捜索中ですが、何分現在我が藩の隠密は壊滅状態でして、その上藩士の大半は城下の復興作業にかかり切りで・・・」
「言い訳は良い!あの男の生死が分からねば、私は枕を高くして眠れぬのだぞ!」
家虎は手元に置いてある煙管を手に取ると、八つ当たり気味に投げつける。
「はは!申し訳ございません!」
主君の叱責に家老は慌てて頭を下げる。
「良いではありませぬか家虎様。例の儀式が終われば、将軍の座は貴方様の物。今更、あの男が生きていようと死んでいようと関係ありますまい」
それを横で観ていたフランチェスコ天草は、そう言って不敵な笑みを浮かべる。
「・・・天草殿の言うことも最もですが、私はどうも細かい事が気になるたちでしてね」
フランチェスコ天草の言葉に家虎は苦虫を噛み潰したような表情で、吐き捨てるようにそう言う。
「も、申し訳ございません・・・ただ、これだけ探して尻尾が掴めないという事は、奴らはやはり自分でつけた火に飲まれ焼け死んだのではないでしょうか?」
「うむ・・・だと良いのだが・・・」
家老の言葉に家虎は不安げな表情を浮かべ、引き続き捜索を続行するよう命じた。

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