暴れん棒将軍 103
ポンッ!
舞い踊る五人の美女たちにすっかり鼻の下を伸ばしていた藤兵衛が、はたと手を打った。
「そうか、わかった! 『おもてなし』⇒『表がない』⇒『裏』⇒『裏柳生』!! きゃつらは裏柳生の精鋭くノ一部隊じゃぞい!!」
青ざめた顔で藤兵衛が家竜の方を振り向いた。
「ふん。どうせそんなことだろうと思っていたぜ。あいつらも五人、こちらも五人。来るのなら、正々堂々と受けて立ってやる!」
家竜の顔に動揺の色はない。
大二郎も楓も雅も、いつ刃や手裏剣が飛んでくるか、座敷の床が抜けはしないかと緊張した面持ちで身構えている。
「本日は私たち『おもてなし武将隊』の舞台にようこそ! この芝居小屋にお越しの皆々様に心より感謝いたしまする!! 本日はお日柄も良く、名古屋のお殿様の招待された御一行もいらっしゃり、我ら一同一層奮起し、素晴らしき舞をお見せいたしまする!!」
宮本武姫がお礼の口上を述べると、武将隊は全員が床につかんばかりに深々と頭を垂れた。
「さて、次なる演物は!! 華麗な手裏剣投げにございまする!!」
ガラガラガラ…ッ!!
武姫が言い終わるや否や、舞台の端に丸い回転板が引き出されてきた。
その板の中心には大の字に手足を括りつけられた少女が…!!
少女は目隠しと猿轡をされており、口をきくことができない。ううう、と唸るばかりである。
しかし家竜は少女の着ている着物に見覚えがあった。珊瑚に違いない。
少女の左右に武姫と十姫がすっと歩み寄った。気合と共に剣光一閃、少女が身に纏っていた着物は一瞬で切り裂かれ、帯と一緒にばさりと落ちた。
豊かな胸乳は細い晒し布一本で押さえつけられ、股下ギリギリまで切り詰められた腰巻が下半身を覆うのみというきわどい格好となる。
観客たちの好色な視線が少女の一身にぐっと集まった。
「珊瑚っ!!!」
顔色を変えた家竜が桟敷席から飛び出そうとするが、両脇から藤兵衛と大二郎が必死に押えつけた。一行のいる桟敷席は二十尺(6m以上)はあろうかという高さである。いきなり飛び降りれば無事では済まない。
「これは罠に決まっておる!! 今少し様子を見んか!!」
「上様、いざとなったらあたいが行くから!」
舞台の上では武姫がさらに口上を述べる。
「さて! これなる半裸の美女に我らが際どいところを狙い手裏剣を投げまする!! 例え何十本、何百本と投げようとも、手練の腕前は美女に血一筋たりとも流させませぬゆえ、皆々様、安心してご覧下さいませ!!」
おもてなし武将隊は縦一列に並ぶと、先頭の武姫がまず棒手裏剣を構えた。
「破ッ!!!」
シュシュシュシュッ!!! カッカッカッカ、カ、カ…!!!!
鋭い気合と共に投げられた手裏剣の一群は、それぞれ珊瑚の身体の輪郭に沿って突き立てられてゆく。
まず頭の両脇、腕周り、脇の下が手裏剣で埋まった。
「むぐぅぅ〜!!」
冷たい刃物の感触を肌に感じて、珊瑚のくぐもった声が上がる。
「お次は私が参ります!」
武姫に代わって進み出た小姫が手裏剣を構える。
「斗ォッ!!!」
シュシュシュシュッ!!! カッカッカッカッ…!!
手裏剣はたちまち珊瑚の脇腹の両側に突き立った。
「次は私にお任せあれ!!」
すっと舜姫が飛び出した。
お手玉の様にして手裏剣を何本も空中にくるくると舞わせながら、器用に投げてゆく。
シュッ! シュッ! シュッ! カッ! カッ! カッ…!!
両脚の周りが手裏剣で埋められた。
「ここまではほんの手始め!! 次は板を回しまする!!」
武姫の口上と共に舞台袖から出てきた黒子が珊瑚の括られた板に手をかけ、回し始めた。
ぐりんっ、ぐりん、ぐりんっ…。
次第に勢いを増してゆく丸板。珊瑚の身体が残像でぼやけ、肌色の円になってゆく。