ほんの少しの勇気で人生って変わると思う 969
僕は白んだ鼻を啜り笑顔を向ける…
「おはよう椿ちゃん…随分と早起きなんだね。」
「はい、朝ごはんの時しかお母さんと一緒にいられないから、毎朝早く起きるんです。」
そうか…昼は学校で給食だろうし、夜は弥生さんが忙しいんだもんな…
「お屋敷の仕事が忙しいから、なかなか椿の相手もしてあげられなくて」
弥生さんは朝食を作りながら言う。
「私は大丈夫だよ」
いっても椿ちゃんももう小学校高学年だしね。
「椿のためにも、下にもう一人か二人、兄弟がほしかったなって思うこともあるの」
「うちの娘2人のいいお姉さんになりますよ、ちょっと歳は離れてますけど」
「そうね…あの匠くんが“お父さん”だなんて今でも信じられないは…」
「“あの”…って何ですか?;“あの”って;…」
「クスッ…、私にとって匠くんはあの頃のまんま…目をつぶると制服姿の匠くんが蘇るは…」
それは僕も一緒かな…
今みたいにバリバリ仕事をしている弥生さんよりも、僕の支え無しにはやっていけなそうな、あの頃の弥生さんの印象の方が強いもんな…
「ふふっ」
僕らの姿を見て椿ちゃんが微笑む。
「なんか面白いことでもあったかしら?」
「お母さんと匠さんは仲良しさんだなって」
「ふふ、もしかしたら椿のお父さんは匠くんかもしれなかったのよ?」
「弥生さん…ちょっとそれは…」
「へぇ〜そうなんだぁ〜」
ニヤケ顔で目尻を下げる椿ちゃん…
そんな顔をするってことは、男と女のそういうことを既に知っているってことかよ?;…
「違う違う;…そんなことはもうずっと前の話しだからぁ…」
椿ちゃんに見詰められて、僕はなんだか焦ってしまう;,