ほんの少しの勇気で人生って変わると思う 962
空が泣き出さないうちに急ぎ足で離れを目指す。
徐々に深まっていく夜だが、離れの家屋には明かりが灯っていた。
玄関まで来てインターホンを押す。
「あら、匠くん、今日も来てくれたのね」
「すいません、大丈夫でした?」
「匠くんならいつでも大歓迎よ」
弥生さんは笑顔で言う。
「あれ…?今日は誰も来ていないんですか?…」
いつも賑わっている部屋はやけに広く感じる…
「天気のせいかしらね?…こんなことは珍しいのよ…」
ワイングラスを差し出してくれる弥生さん…
詮が抜けているところを見ると、既に一人で飲んでいたんですね…
「椿ちゃんは?」
「もう寝たわよ…じゃないとこんなに楽しめないよ」
そんな弥生さんが優雅で、ワインの似合う大人の女性、という感じがした。
「今でもワインは入ってくるんですか?」
「そうね。ただ飲むだけじゃなくて、料理にも使えるし…」
弥生さんは僕にグラスを差し出してくる。
「それじゃ遠慮なく頂きます…」
吉乃さんと飲むはずだったのにそうじゃなくなって、ちょっとがっかりはしていたんだよね;…
「結構飲めるようになったんじゃない?…」
「だめですね;飲むのは大好きなんだけど、なかなか強くはなりませんね;…」
好きだからつい飲み過ぎて、失敗の連続だもんな;…
「そういうところも匠くんらしくて、私は好きなんだけど」
「本気で言ってます?」
「もちろん♪」
弥生さん、結構酔ってきてるな。
そういえば弥生さんと一緒に飲むのって、何度目だっけ?
「でも、匠くんと一緒にお酒が飲めるなんて…考えもしなかったな…」