ほんの少しの勇気で人生って変わると思う 947
「匠さんはジョギング…?」
汗で張り付いた僕のTシャツを見ながら吉乃さんは言う。
「はい、この先の湖まで行こうかと…」
Tシャツをパタパタさせながら答える…2人っきりっていうのはやっぱり照れる;…
「あらぁ湖があるのぉ?…私も行ってみたいはぁ…」
ぱあっと明るい表情になる由乃さん。
まるで少女の、あのポスターのような笑顔にドキッとする。
「一緒に行きます?」
「ぜひ、お願いします」
2人でなだらかな斜面を登っていく。
このお屋敷、結構高低差があるんだ。初めて知ったよ。
しばらく歩くと、ライトアップされた湖面が視界に入ってくる。
うわぁ。夜になるとこんな演出がされるなんて全く知らなかった…純ちゃんと来た時はまだ日は高かったもんな…
「素敵だぁはぁ〜まるで映画のセットみたい…」
本当にそうだ。
まあ由乃さんは間違い無く主演女優だろうけど、僕はせいぜい裏方ってところだね;…
「匠さん」
由乃さんが隣に来るよう促してくる。
「は、はい」
それだけで緊張だ。
あの頃の憧れの人は無邪気で、あの当時のような表情で。
「綺麗ね…」
「そうですね」
ふと、由乃さんが僕と手をつなごうとしていた…
いいんだろうか…?
そう思いながらも先に手を伸ばしたのは僕の方だった…
「す、すいません;つい…」
慌てて離そうとする僕の手を、吉乃さんは強く握り返してきた…
「いいんじゃない?…手を繋なぐぐらい…」
余裕を持って吉乃さんはニッコリと微笑む…