ほんの少しの勇気で人生って変わると思う 95
―さて、そうやって話しているうちに
「先ほどは申し訳ありませんでした…食事のほう、出来ましたので」
弥生さんがやってきた。
舞ちゃんと純ちゃんが大事そうに慎重に運んでいるのを見て、さっきはなんか申し訳ないことをしたなと思ってしまう。
「皆さんで一緒に食べましょうか」
涼香さんがニッコリと微笑んで言う。
そこに、ドアの向こうから小学生くらいの女の子がひょこっと現れる。
「あ、匠くん、こっちが私の娘の椿」
弥生さんが紹介すると、椿ちゃんがぺこりと頭を下げた。
透けるような白い肌に、金色混じりの茶褐色のストレートヘア、大きな瞳は吸い込まれそうなグリーン色を帯びていた…
それでいて弥生さんにとても似ている椿ちゃんには、西洋人の血が入っていることは、一目瞭然だった。
僕は椿ちゃんのその容姿を前に、どこか落胆した。
弥生さんの産んだ子供が自分の子供ではないかと、どこかで期待していたのだ…
そしてそれは、僕の子供では無いと同時に、あの時の弥生さんの旦那さんの子供でも無いことを顕著に物語っているのだ。
フランスにいたんだもんな…
ソフィアちゃんほどではないが、整った顔立ちと顔のパーツは欧州の血が流れていることを証明するかのようで。
(…ただ、ソフィアちゃんがどこの国の人なのかはまだ知らない)
「全員揃ったところで、食事にしましょうか」
「そうですね」
涼香さんの言葉に、杏さんが答える。
香澄ちゃんは僕の隣に座り、反対側に椿ちゃんが座った。
正面には涼香さん、杏さん、弥生さんがいる。
壁際には桜ちゃんをはじめとするメイドちゃんたちが起立した。
女性ばかりに囲まれるハーレムのような状況に、さすがの僕もかなり照れる。
家とて妹が多いのだから、男1人、女はいっぱいの状況には慣れてはいたものの、当然のことながら家族と今の状態はかなり違った。
涼香さんがグラスを掲げる。
「それでは乾杯いたしましょ!」
…乾杯するようなめでたいことがあるんですかね?と突っ込んではいけないでしょうね、多分。
…というか、真っ昼間からアルコールですか、贅沢ですね。
しかもお高そうなワインやシャンパンが…こんなの飲んだことありませんよ…
「匠さんはお酒は飲まれますか?」
杏さんがボトルとグラスを持って尋ねてくる。