ほんの少しの勇気で人生って変わると思う 916
「なるほどな、そういう気遣いができるなんて、香澄も大人だな…」
「いえいえ」
僕が初めてここに来たときは香澄が家出から帰ってきた直後だった。
そのときも大勢のメイドが並んでお出迎え…正直言って驚いた。
それが由乃さんを出迎える今回に生きたのかもしれないね。
ソフィアちゃんが持って来てくれたお茶を飲みながらの歓談…
今度撮影に入る映画で、由乃さんは本当に引退を考えていることを聞かされる…
「もしかしてそれって漫画が原作の?…」
「あらぁ匠さん、少女漫画をお読みになられるの?…」
「まあ知ってはいるんですけどね…」
「実写化されて、そこでもヒロインの母親役なんです。最近は多いんですよ」
にこやかに話す由乃さん。
本当に母親役がよく似合う女優さんだ。
「由乃は聞いていたかな、その作品を書いたのはうちでメイドとして働いていた子でな…」
和彦さんが説明する。
…あれっ?純ちゃんは帰っちゃったのかな?…
「まあぁそうでしたのぉ…あんな素敵な話しを書いた方にお会いしたかったは…」
純ちゃんが聞いたら泣いて喜ぶよな…
「ほんと素敵な話しですよね…お母さん役と言ってもヒロインの彼氏と恋に落ちる女性…私は実写化が決まる前から、花咲夢乃さんをイメージして読んでいたんですよ…」
香澄…なんだか目が輝いてはいないかい?
香澄は漫画とかゲームとかアニメとか大好きだもんなぁ。
出会ってから僕も付き合っていろいろ見たような気がする。それこそ純ちゃんの描いた作品も。
「嬉しいわ。そう言われるとやりがいがあるし…精一杯演じ切らないとね」
「最後の作品にするならなおさらだぞ」
「もちろん!」
顔つきが変わった。これが女優魂か。