ほんの少しの勇気で人生って変わると思う 915
「そんな勿体ない…今では女性の憧れの存在なのに…」
それはそうだ…花咲夢乃が引退だなんて、芸能界に大きな穴が空くようなものだ…
「そう言ってくださるのは嬉しいけど…私の代わりなんていくらでもいる筈よ…それにこれからは、和彦さんのよき妻として生きていきたいのよ…」
「由乃…」
「お父様はこのこと…ご存知なかったんですね?…」
「ああ、今初めて知ったさ…」
和彦さんは今初めて聞いたとは言うが、由乃さんの言うことを咎めたりはせず、優しく見守るような雰囲気だ。
これが大人の恋愛ということか、余裕すら感じる。
「君がそう決めたなら反対はしないよ」
「和彦さん…」
「何があっても、私たちは由乃さんの味方です」
香澄も続く。
この2人が血のつながりがないなんて、今は信じられないな。
「匠さんもよろしくお願いしますね…」
僕にまでそんなことを言って貰えて恐縮しますって;…
「あっ、僕もこの家では新参者ですから…一緒に頑張りましょう…」
「そうなのね…それじゃあ歳の離れた同期ってところかしら…?」
「あっ、いえ…そんなには離れてはいないんですよ…」
香澄との年齢差に比べると、由乃さんとの方がずっと違いもんな…
「まあここに暮らしている以上、苦労は絶対にしないはずさ。何か困ったことがあったら住み込みで働いているスタッフがたくさんいるしね」
「お迎えにメイドの子がいたわね」
「みんなよくやってくれますから」
ドアがノックされ、ソフィアちゃんがお茶を持ってやってくる。
「まあまあこんな素敵なお嬢さんが?…」
「彼女だってメイドだよ、普段はメイド服を着ているんだが…一体今日はどうしたんだ?」
何も知らない和彦さんが首を傾げるのも当然だよな…
「お父様、今日は特別に私服で応対するように言ったんです…その方が由乃さんは構えないでいいかと思って…」
「あらぁ私の為に…?、そうね、確かにメイドさんが大勢いるお宅なんて初めてですから、メイド服で整列でもされたら驚いていたと思うはぁ…」