ほんの少しの勇気で人生って変わると思う 886
そう言われてもなんだかピンと来ない。
僕は和彦さんと直接血のつながりがあるわけではないし、香澄も和彦さんの娘ではないのだから、娘婿、というのもおかしい。
「匠さん、そんな難しい顔されなくても」
「いや、なんかそういわれても理由が見いだせなくてね」
まあ世間的には香澄は和彦さんの娘ってことになっている訳だし、その娘の婿である僕は、跡取り息子ってことになるんだろな…
「難しく考えることは無いですよ…」
そう言って貰えると、少しは気持ちは楽になるけどね…
「まあ今の話は全部なかったことにしてください。ご主人様だってまだまだお若いですし、急ぐことは何もないはずですから」
「そうだね」
あんまり和彦さんに頼ることはしたくはないが。
「誰か開けてくれるかなー」
「おっと」
ドアの向こうから弥生さんの声がする。
僕は誰よりも早くドアに向かいその扉を開く…
「まあぁ匠くん…貴方が来てくれたのぉ…」
「弥生さん、久しぶりです。」
僕は弥生さんの手から銀色のドームのような蓋の被ったトレーに手を伸ばす。
「いぃんですよぉ匠さんはそんなことなさらないで…、これは私たちの仕事なんですから…」
後ろでソフィアちゃんが呆れ気味に僕を制して間に割って入る。
「できることは自分でするさ」
「ふふ、匠さんは弥生さんに優しいですねぇ」
「ああ…まあね」
いつの間にか香澄もやってきたではないか。
「匠くんも良い旦那様の顔ねぇ」