ほんの少しの勇気で人生って変わると思う 750
美玲ちゃんはこちらを見て、ウインクして手を振る。
…もし仕事がうまく行ったら、今夜は帰りが遅くなるかな…朝帰りかな?
まあ、余計なことを考えないほうが良いな、今は。
気を引き締めなおし僕は会社を出て、スズタへと向かう。
スズタの本社に赴いてそう時間は経たずに、商談のときを迎える。
三枝美咲さんに促されスクリーン脇の縁台の前に立つ。
こんなにも多くの前でのプレゼンと思っていなかっただけに、酷く緊張してしまう。
まあ、それだけうちの会社との取り引きに、スズタ側は興味を抱いているってことなんだろう…
こんなことなら、他部署の営業も連れて来ればよかったよね。
プレゼンはなんとか順調に進めることができた。
途中お偉い人なのかはわからないけど、いくつかの質問を受けたがそこまでいやらしいことも聞かれず、心配していた(これがある意味で一番かもしれない)スーツを脱いで披露することも当然なく、いい感触を得て終えることができた。
「お疲れ様でした」
美咲さんが僕の元にやってきて笑顔で労ってくれる。
「ありがとう」
「今後は上の者の決定待ちとなりますので」
「反応はどうだったんでしょうか?…」
「もちろん私は上手くいったと思いますよ…柏原さん、素晴らしいプレゼンでしたもの…」
世辞だと分かっていてもそう言われると嬉しい…
「それじゃあ期待しても…?」
「それはまだ何とも言えないは…、スズタには柏原さんや私の力ではどうすることも出来ない先代の力が、深い所で根付いているんですよね…」
先代…鈴田宗次郎のことだな。
美恵子さんや巧とは未だに冷え切った関係だというからなぁ。
今プレゼンを聞いていた人たちは美恵子さん側の人が多いのか、それとも…
いずれにしても答えが出るのはまだまだ先の話になりそうだ。
「そういえば、社長にお会いになられたそうですね」
「えっ…ああ、まあね」