ほんの少しの勇気で人生って変わると思う 746
「お兄さん、この家を出て行かれるって聞きましたけど」
「梓から聞いたか」
「ええ…」
まあ今更って感じもするし口外するなということでもない。
「妻の実家で暮らすんだ。ココから近いけどね」
「じゃあいつでも遊びに行けるってことですねぇ」
「浮気性の君はあまり来ないほうが良いかもな」
まあ人のことを言ってはいられないけど;…
自分もあの家で生活するようになったら、どうなることかと不安ではあるんだな;…
「それってあの家には、可愛い女の子がいっぱいいるってことですよね?…」
なんでお前は身を乗り出してくるんだよ…;
「恭介お前なぁ;…そういうことを僕に言うなって言っただろ;…」
「す、すみません…」
調子に乗ると口を滑らせるタイプだな、この彼は。
梓はしっかりと繋ぎとめておかないとダメだぞ〜。
机の上の時計を見やる。
ずいぶんと2人で喋っていたんだなぁ。
部屋の明かりを消して、もう寝ようと横になる。
…不思議とその夜はぐっすりと眠れた。
朝になり、まだ寝息を立てる恭介の横で、僕は出勤の支度をする。
大学生なんて気楽なもんだ…と、ついちょっと前まで、自分も同じようなものだったことも忘れ、呆れてしまう…
まあ人ん家に泊っておいてこんなにも熟睡できるんだから、コイツって案外、啓くんよりも図々しいのかもしれないよな…
僕はまだあどけなさの残るそんな童顔の恭介の顔をマジマジと見ながら、そんなことを思ってしまう。
僕がゴソゴソと準備で物音を立てているにもかかわらず恭介はその間も熟睡し続けていた。
…なんとまあ幸せなヤツだ。
1階に降りる。
「おはよう」
キッチンではお袋が朝食を作っている最中だった。
…久しぶりにいつもの朝、という感じがした。