ほんの少しの勇気で人生って変わると思う 728
巧の顔をちらっとうかがった後、僕は彼の身体か行動を細かく見てみる。
長袖なので直接はわからないが、巧は僕よりも色白に思える。
手も男とは思えないくらい長くてしなやかだ。
肌も男にしてはツルツルで、脱毛処理はそこまで行き届いているように見えた。
「巧…あなた…」
「別に僕は母さんのことを恨んでも嫌ってもいないですから…」
微笑んではいるものの、目は笑ってはいなかった…
恨んでも嫌ってもいない…だけど好いてはいないってことかよ?…
巧と美恵子さんとの親子の確執は、まだまだ根深いのかもしれないよな…
「まあいいは…せっかく匠とも親子の名乗りが出来たんですもの…今日はその話しは止めにしましょう…」
確かにそうだ…だけど巧には、今度ゆっくりその話しを聞いてやりたいよな…
「…しかし、なぜ今美恵子さんは和彦さんと会おうと決意を」
「ええ、それは匠…貴方が営業交渉の席にいると話を聞いたからよ」
「三枝美咲さんですか」
「彼女はうちの社員の中では一番の才能を持つ子よ…」
美咲さんの名前を出した途端、巧の方はどこか気まずい表情を浮かべる。
「お互いできる者同士を交渉のテーブルにつけてきたわけだな」
和彦さんは微笑んで言う。
“できる者…”なんて言われて恐縮してしまう;…
僕なんてまだまだなのは、自分が1番よく分かっているからね;…
「青山コーポレーションの次期社長って訳なんでしょ?…」
「あっいえ…まだそこまでは;…」
当然考え無いことも無いけど、そんな自信は全く無いもんな…
娘婿というだけで中途入社、まったく仕事で実績もないのに。
それに、香澄だって和彦さんとは血のつながりがないのに…次期社長という言葉には戸惑いしかない。
「スズタだって、彼が後継ぎなんだろう」
「私はそうしたいんですが、なかなかスムーズにはいかなくて…」