ほんの少しの勇気で人生って変わると思う 725
「すまんな突然に呼び出して…」
笑顔を浮かべる和彦さんの向かい側に座った女性が、ゆっくりと振り向く…
この人が鈴田美恵子…
ネットで見るよりもずっと小柄で、弱々しい感じすらした…
「いえ社長、調度鈴田巧さんもいらしていたんですよ…」
ゆかりさんは鈴田美恵子に笑顔を向けながら言った。
僕の後ろからのそっと姿を現す鈴田巧を見て、和彦さんは一度目を見開いて驚いたような顔をしたが
「…本当によく似ているな」
「ええ、ビックリしました」
杏さんも言う。
鈴田美恵子さんは無言で僕らを見ている。
いつだったか見た卒業アルバムの印象はない。
眼鏡をかけていないし、髪も短くなっていた。
多分苦労したんだろう…
落ち着いたその佇まいは同じ歳のお袋よりずっと年上に見える…
それでもお袋とはまた違って、とても綺麗な人だ…
「はじめまして…柏原匠です…」
僕は自分から声を掛け、深々と頭を垂れた…
「こちらこそ。大変な思いをされてきたでしょう…」
美恵子さんは柔らかな笑みを浮かべ、僕に会釈する。
物腰の柔らかな大人の雰囲気。さすが大企業の主だけある…
しかしその言葉は美恵子さんにこそかけたかった言葉だ。
僕らを巡る一連の出来事は、美恵子さんが起点となったはずだからだ…
「まあ立ち話しも何だし、座ってくれよ…」
和彦さんが僕らをエスコートしてくれる。
「それじゃあ私は失礼しますね…」
遠慮したのだろう…ゆかりさんが頭を下げる。
「おっそうか…よかったら別の部屋で茶でも飲んで行ってくれ…」