ほんの少しの勇気で人生って変わると思う 719
こっちに向かって来るスリッパの音を聞くと、僕はその場から立ち上がり、栞も慌ててそれに続いた。
「なんか緊張する…」
小さな栞の呟きと同時にリビングのドアが勢いよく開き、そこに満面の笑みのゆかりさんが立っていた。
「もぉ〜来るなら来るって言ってぇ〜」
会社でよりも少し派手目のメイクのゆかりさんは、まるで美人女優のような華やかなオーラを放っていた…
「仕事だったんですか?」
「出張でね〜、そこでパーティーもあったからね」
それなら納得だろうか。
それにしてもメイクひとつでここまで変わるとは、まさに魔法のようだ。
「あら、そちらは…」
「あっ…ええと、妹の柏原栞です…」
「どうしたんだよ栞…いつもの元気は…」
心ここに無しって感じだもんな…
「だって匠兄ぃ…後ろの人…」
ゆかりさんを通り越したその先を栞は見ていた…
ん?…啓くんだろ…その横の…
………………………………ぅえ?…
その男の姿見て、僕は一瞬固まってしまう。
「えっ」
「えっ」
向こうも向こうで、表情を引きつらせ固まっていた。
ゆかりさんも、啓くんも、まったく同じように…
「匠兄ぃが、2人…?」
栞のその一言に、ハッとした。
「もしかして、君が鈴田巧…?」
「って、君は…柏原…匠……?」
なんだよなんだよ…声まで同じじゃないかよ;…
「やだぁ何?何?…匠兄ぃ、鈴田巧って何なのよ?……これってどういうことぉぉ???…」
「あっ;…そう言われても…僕も詳しくは…」
「瓜二つとは正しくこのことね…一卵性の双子だとしても、ここまでそっくりなのは珍しいんじゃないかしら…」