ほんの少しの勇気で人生って変わると思う 714
あの頃、弥生さんは当時の旦那との間になかなか子供が出来ずに姑から散々いびられ悩み苦しんでいた。
そんな弱り切っていた弥生さんに泣きつかれて関係を持ってしまった…それが僕の童貞卒業だった。
「弥生さんが悩んでたのは私も知ってたもん、匠兄ぃとしてた方が良かったって思っちゃうよ」
弥生さんが旦那とのセックスをどう思っていたのかは聞いたことは無かった。
だけどあれ程に僕を欲していたのだから、きっと満足はしていなかったんだろう…
「まあ今となっちゃ、弥生さんとのことはいい思い出だけどな…」
「思い出かぁ…私もそんな風に思える時が来るかな?…」
花木恭介のことか…
誠実そうな顔して、ほんとアイツって罪な男だよな…
「それを数年後、何十年後にいい思い出と言えるようになるには、これからのお前次第だからな」
「わかってる…私も頑張る」
生意気だけど栞は僕より出来が良い子だ。
高校も大学も努力して僕よりワンランク上のところに合格したくらいだからね。
その分、恋愛に関しては二の次になっちゃったのも仕方ない。
もしかしたらその頃から花木恭介のことを好きだったのかもしれないけど…
エレベーターは最上階に到着する。
「こんな一等地のペントハウスだなんて凄いね…」
「うん…」
いくら家の会社の部長だからといって、普通のサラリーマンのゆかりさんが、給料だけでこんな高級な所に住めるんだろうか…?
最上階に到着し、少し廊下を歩くと目の前に大きな扉。
「すごいね」
「僕も初めて見たよ」
少々ためらってしまうが、意を決してインターホンを押す。
「はい?」
少しして出たのは啓くんだった。
「おはよう、啓くん。朝っぱらからごめんな」