ほんの少しの勇気で人生って変わると思う 712
なんにしても、妹3人で一人の男を取り合うという構図は、まだ終わりを告げていなかったということなのだろうか?
恭介にはまだ茨の道が待っていそうだ。
「梓のお腹の赤ちゃんは…」
「梓にはおめでとうって言ったよ…でも、私はどこかでそれを認めたくないと思ってる…意地が悪いって言われたらそれまでだけど、私は…」
俯いて必死に涙を堪えようとする栞の肩をそっと撫でる。
リビングではなく、どこか2人になれる場所で話せないかな、と思う。
「朝飯が終わったら、ちょっと出掛けないか?…」
今話したいところだけど、皆に変に思われることは極力避けたい。
「うん…私も一緒に啓くんの所に行くよ…」
「ぅえっ……?」
梓と恭介が一緒になることで失恋した2人を…こんな直後に会わせていいもんなんだろうか?
こういう時って、振られた者同士でくっつくことが少なくない。
もしそうなれば栞にも啓くんにもいいことだろうけど、梓と恭介は複雑だろう。
僕は、みんなが幸せになるならいいとは思うけど…
「あまり感情のままに突っ走るなよ」
「そんなことない…」
栞はそう言う。
まあ栞も大人だ。
恭介を見返す為に啓くんとどうのこうのという関係になることも無いだろう…そう信じたい;
でもやっぱり啓くんのことは心配だから、側に付いていてくれる誰かがいて欲しいのは確かだ。
「アイツもナイーブな奴だから、力になってやろうな…」
僕はポンッと栞の肩を叩き、立ち上がった。
朝食後、ちょっと散歩してくると告げ、僕は栞と家を出た。
栞と2人で外出するなんてこと、今までにあっただろうか?記憶の底を手繰り寄せようとしてもなかなか思い出せなかった。
「ごめんね、匠兄ぃに余計な心配かけさせちゃって」
「気にするな。いくつになっても妹は可愛いもんだからな」
「ありがと…」