ほんの少しの勇気で人生って変わると思う 711
義理の弟になる花木恭介とは、こんな裸の付き合いから始まるとは思ってもいなかったけど、何も着飾らないことで、互いに早くに打ち解けられたのかもしれない…
そう思うと、これでよかったとも思えた。
初めは妹たち三人を手玉に取るスケコマシの悪党かと思いもしたが、恭介はそんな器用なことが出来る男でもなさそうだしな…
まあ、まだまだ心配なことは山積みなんだけど、それでも恭介がいい奴でよかったと…心から安堵できた。
風呂から上がり、服を着なおしてリビングに戻る。
「おはよう、匠」
「ああ、おはよう」
いつの間にか(まあ当然だが)お袋や葵も起きていた。
僕も遅ればせながら一緒に朝食をとろう。
「……」
ふとリビングを見ると、栞が一人、ソファーに座って俯いていた。
「どうした…栞」
僕はそっと隣に腰を下ろす。
「ごめん匠兄ぃ…今朝のこと見てたんだよね…」
僕が恭介を助けたことで察したんだろうな…
「見ちゃいないさ…でもヤッてることはだいたい想像はついたけどな…」
「ごめん…」
力のない、弱々しい調子で栞は言う。
「あいつのこと、諦められないのか?」
「…鋭いね」
栞は瞳を潤ませながら微笑んだ。
初めて、妹が女になったんだなと思った。
そこに、僕の背を追いかけていた可愛いあの頃の姿は、もうなかった。
「辛いよな……栞の気持ち、誰か他の人は知っているのか?…」
僕は何気にキッチンで朝食の準備をしているお袋と葵に目をやる…
「葵姉ぇは気づいていると思う…だって葵姉ぇは、私の為に身を引いたようなものだもの…」
栞の為にか……争いごとを嫌う葵なら、自分の気持ちを抑えてでもそうするかもしれないな…
恭介は“葵とは終わっている”と言っていたけど、それは恭介一人がそう思っているだけなのか?…