ほんの少しの勇気で人生って変わると思う 702
「匠兄ぃ…」
どうした、いつもの栞らしくない。その表情はいったいなんなんだ。
「まあ僕も啓くんのことを考えたら、複雑なんだけどな…」
「やっぱり匠兄ぃは啓くんに優しいね…」
「親父だって一緒さ」
花木恭介が今から家にやってくることはわかっていても、煮え切らない思いがどこかにあるんだよね…
まあ僕と親父は、女ばかりの家族の中、啓くんへの思い入れは特別だったかもしれないけど…栞はどうなんだろ?…
栞と啓くんは特に仲がよかったようにも見えなかったし、2人で話しているのなんて見たことも無いもんな…
それなら栞がこんな顔してんのは、僕と親父みたいに啓くんを心配してってことでもなさそうだよな…
もしかして栞…花木恭介って奴と、何かあるんだろうか?
あまり考えたくない話だが、もしかしたら花木恭介という男をうちの妹3人で取り合うという恐ろしい想像ができてしまう。
「…うーん」
「匠兄ぃ、どしたの?」
「いや、なんでもない…」
少し疲れてきたのか、僕は一旦2階に上がり自分の部屋にこもった。
まあ初めて会う相手にパジャマ姿っていうのも何だし、普段の服に着替えないといけないからな…
パジャマを脱ぎ捨て、パンツ一枚でベッドに腰掛ける。
部屋に散乱した洗濯物の中には、啓くんのものも混じっていた。
頻繁に泊まりに来ていた啓くんは、数枚の替えの下着をこの部屋に持ってきていたのだ。
“お前も一緒に花木恭介に会うか?…”
そんな思いから、僕は啓くんのパンツに掃き替えた。
…たかだか妹の彼氏にそんなにかしこまる必要があるのかと普段なら思ってしまう。でも今はそうではなかった。
「どうしたもんかね」
パンツを手にとってはいたところでベッドに寝転ぶ。
梓と関係して子供ができたのはいいとして、葵や栞まで絡んでくるとはいったい何事だろう。
…いろいろ思いを巡らすが、そのうちに疲れが押し寄せ眠気に襲われる…