ほんの少しの勇気で人生って変わると思う 687
こんな子が“お母さん”だなんてなんだか信じられないよ…
「本当に匠さんとお嬢様は家族になられたんですね…」
僕の横に来て、純ちゃんがしみじみと言う…
「あ、ああ…僕も悪さなんてしている場合じゃないよな;…」
佐織ちゃんとの今さっきのことを、今更ながらに反省してしまう;
「ふふっ、どんな悪いことをしてきたんですかね〜?」
クスッと笑って意味ありげに言う純ちゃん…そんな顔しなくても…
「そ、それは…」
「まあ私もその悪いことのお相手になっちゃったから強くは言えませんけどね…」
…知っているんじゃないか。
「う、ううん…」
僕らがそんな話をしていると、香澄が目を覚ましてしまったようで…
いくらそういう面に対しては寛容な香澄だからといって、それにいつまでも甘んじている訳にはいかない…
僕も一家の主人になる自覚をちゃんと持って、香澄に言えないようなことはなるだけ控えなくちゃいけないよな;‥
僕は少しばかりの覚悟を持って、微睡みの表情を浮かべる香澄の頬をそっと撫でる…
「匠さん…」
僕の顔を見て微笑む香澄は、天使のようだった…
「香澄…」
思えば香澄と会話するのは、家で倒れる前のことだ…
「匠さん、私、がんばりました…」
「うん、わかってる」
「赤ちゃん、とても可愛かったです…」
「うん…」
一つ一つ言葉を選ぶように紡ぎだす、そんな香澄がたまらなく愛おしく感じた。
「これから、もっともっと頑張らないとな」
「そうですね、匠さんと一緒に」
自然と頬を寄せ合い、香澄の身体を優しく抱き締める。
香澄もそれに応えるように、僕の背に腕をまわしたきた。
日溜まりのような暖かさを感じながら、僕はそっとキスをする…
そこに性的な感情は全くなかった…
ましてはそんなことを考えること自体が汚らわしくも思えた…
僕は香澄の唇の感触を味合いながら、今やっと香澄と家族になれたのだと思った…