ほんの少しの勇気で人生って変わると思う 667
天井を見上げながら“ふぅ”と軽くため息を吐く…
はっきり言って父親になった自覚は無かった。
立ち合ったというのに、ドキュメンタリー番組で見る感動的なものでも無かった…
まあ考えてみると、母親は10ヶ月も自分の腹の中でその準備をしているけど、父親はそうもいかないもんな…などと自分を説得してみたりする…
これから徐々に実感してくるものなのだろうか。
自分が父親らしく振舞えるかどうか不安は正直ある。
だけど、親父がそうであったように、誰もがその不安を乗り越えてるんだと言い聞かせる。
守るべき人が2人増えたのだ。
ガチャ
病室のドアが開いた。
「兄ぃ、大丈夫か〜い」
暢気な声とともにやってきたのは梓だった。
「おっ、来てくれたんだ。」
「まあ診察を兼ねてなんだけどね…」
「診察ってお前…どっか悪いのかよ?…」
「病気って訳じゃないんだけど…」
そう言いながら目を逸らす梓…
「病気じゃないって…?そんじゃ何を診てもらったんだ?…」
「…………私、出来たかもしれない」
「…何言ってんですか梓さんや」
「…私も最初は何がどうしたのかわからなかった…でもね…」
梓はベッドの傍の椅子に座り、神妙な面持ちで話し始めた。
「つまり…そういうことか」
「わかるよね…香澄ちゃんと同じかもしれない。まだはっきりとはわかんないんだけどね…」
妹の妊娠…
複雑な心境だな…
「啓くんは知ってんのか?…そのこと…」
僕の問い掛けに、梓は黙って首を横に振った。
「ちゃんと言わなきゃダメだよ…アイツも関わっていることだしな…」
「違うの…」
「ん?…」
「……啓くんは父親じゃないの…」