ほんの少しの勇気で人生って変わると思う 652
みんながいつもどおりに戻ったところで再びお菓子を食べながら楽しむ。
「美味しいです。椿ちゃん、腕を上げましたね〜」
香澄がニコニコ顏で椿ちゃんの頭を撫でる。
まさしくその通り。
こんなに美味しいのを作る小学生はいないよね。
そんなこんなで夜も拭け、僕の部屋で椿ちゃんを寝かしつけながら、啓くんも横で爆睡してしまった…
まあ今日のところは啓くんがいてくれ助かったんだから、許してやろう…
2人を残しそっと一階に下りると、親父と弥生さんがグラスを傾けていた。
「あれ…お袋は?」
「寝ちゃったはよ…相変わらず弱いんだから…」
「匠もどうだ、一緒に」
親父がグラスを掲げながら僕を誘う。
…親父だって酒弱いのに、今日は珍しいな。
…あれ、むしろ強いのはお袋のほうじゃなかったけな。
「まあ、一杯だけな」
僕も傍の椅子に腰掛けた。
「2人で何を話してたの?」
「昔のことよ…匠くんが産まれる前の話し…」
弥生さんがグラスにビールを注いでくれる。
「弥生さんたちが高校生だった頃の?…」
僕はグラスを受け取ると、半分空いた弥生さんと親父のグラスに注ぎ足してあげる。
「ああ、皆まだ若かった…俺も同じだが、先のことなんて考えているようで何も分かっちゃいなかったんだな…」
親父はそう言うと、グラスを一気に空にした。
お袋や弥生さんたちは17か18歳、親父でも大卒間もない23…自分たちの身の振り方を決めるにはまだ早過ぎたのかもしれない。
ましてそれは30年くらい前だから…周囲の視線は今よりずっと厳しかったことだろう。
「でも親父はすごいよ…みんなを守る為に自分を犠牲にしたようなもんだろ?」
「ああ…でも最終的にはそうするしかなかったわけでな。おかげであれから一度も実家には帰ってない…いや、帰らせてくれないのが正しいかな。勘当って奴かな…」