ほんの少しの勇気で人生って変わると思う 630
「その後、美恵子さんとの関係は?」
「それっきりだよ、鈴田はあの後人が変わったように笑顔も見せてくれるようになったけどね」
「そうですか…」
「それから一月もしないくらいだ、操が俺に相談したいことがあると言って授業後にな…」
「それってもしかして…」
僕は身を乗り出して親父の顔を見た。
「ああ…妊娠だ。青山和彦の子供を身篭ってしまったってな…」
「一ヶ月で…分かるものかしら?…」
「いや、操と青山は既に数ヶ月前に体験していたらしい…そのことであの夜、鈴田に相談していたそうだ…」
「そのときに出来て、生まれたのが匠さんになるのですね」
「まあ、そうだ。まだ少し話はややこしくなるのだがな…」
親父はまだ何か隠しているのか。
「操さんから妊娠の話を聞いて、彼女を自分の実家に近い場所で過ごさせたのですね?」
「ああ…操に辛い思いをさせたくなかったからな…」
「出産する時は、鈴田美恵子さんも一緒だったとか…」
香澄は続けて核心をついてきた…
「あ、ああ…そこまで知っていたのか…」
親父は少し驚いた表情で僕たちを見た。
「その時…美恵子さんも…妊娠していたって聞いたよ…」
僕は親父から目を反らしながら言った。
「そこまで知っていたら、俺から話すことなんて何もないじゃないか…」
親父は観念したように俯き、頭を抱えた。
「確かに鈴田も妊娠していた…アイツの家は由緒のある血筋だってのもあって…2人に泣きつかれたら…」