ほんの少しの勇気で人生って変わると思う 628
―今から28年前のこと。
親父は新任教師としてある高校に赴任した。
そこで、3年生のクラスの副担任を任された。
そのクラスの中心にいるのは桜木操…お袋だった。
当時のお袋は誰もが認める美少女(今もそのルックスは健在だが)。
「親父はお袋のことが好きだったのか?」
「ああ…あんな綺麗な女の子は見たことなかったよ」
同じクラスの鈴田美恵子さんは成績はお袋より優秀だったが、クラスではあまり目立たない存在だったという。
「鈴田は手のかからない優等生でな…あんなことが無かったら、印象にも残らない地味な生徒だったんだ…」
「あんなことって…和彦さんの子供を妊娠したってことか?…」
「話しを急ぐな…まあ結論を急ぐのは、俺と似ているがな…」
「分かったよ…もう茶々を入れないから、じっくり聞かせてくれよ…」
「あの日俺は、当時付き合っていた彼女とのデートも忘れて、試験問題を作るのに夜遅くまで学校に残っていてな…」
『当時の彼女』
その言葉に、恋ちゃんの眉がピクリと反応する。
それに僕も香澄も気になったが、その話はまた後にしよう。
恋ちゃんは続けてください、という風に促した。
「そのときに何があったのです?」
「ああ…夜中まで仕事してたのを気にかけてくれたのか、操と鈴田が2人で来てくれてな」
「夜中に2人で?…お袋と美恵子さんは、その当時仲がよかったの?…」
「太陽と月のように正反対の2人だからな、操と鈴田が一緒に現れた時は俺も驚いたさ…」
「たまたま偶然に親父の所に来たのが重なった…ってことでは無いよね?…」
「ああ、あの日鈴田は操の家に泊まっていたらしい…」
「またどうして?…」
「2人の共通点である青山和彦のことでさ…」
そう、和彦さんも2人と同じクラスだった。
和彦さんはお袋に一方的に思いを寄せていたらしいが、美恵子さんはどうだったっけな…
「2人が深夜の学校にやってきて、何をしたんでしょう」
「ああ…2人とも仕事を手伝ってくれたんだ…」