ほんの少しの勇気で人生って変わると思う 583
「匠さん…」
さっきとは違うか細い声で、エリカちゃんが囁いた。
「どうした?」
「こっち向いてくれません?」
そう言われたら振り向くしかないだろう。
すると……エリカちゃんは、さらに身体を密着させた。
豊満な胸の谷間が僕との間で潰れる;…
背中に回された手は、背骨をなぞるように下に向かっていた…
「私が“お兄ちゃんみたい”って言ったのは、“巧お兄ちゃんみたい”ってことですよぉ…私ずっと、巧さんのことそう呼んでいたんです…」
勘違いしたのは僕って訳か;…
部屋にあったあの写真を思い出す。
確かに鈴田巧とエリカちゃんは実の兄妹のような雰囲気があった。
「僕は彼とは違うなぁ」
「そんなことないです…匠さんも、優しくて頼りになる、お兄ちゃんみたいですよ」
褒めてくれているのは分かるけど、僕としてはいささか複雑だ;…
僕の中でなんだか鈴田巧に対するライバル意識が芽生えて来ちゃうんだな…
「その巧お兄ちゃんと似ているのは分かるけど、僕は彼と違ってちゃんと生えているんだぜ…」
こんなことで張り合ってどうすんだ?…と思いつつも、僕は言わずにはいられ無かった;…
「ふふっ、匠さんはそこばかり気にしますよね〜」
エリカちゃんはクスッと笑いながら僕を見た。
「いや…だって、僕は気になるんだよ、そこが…」
ついついムキになってしまう。
「私が今の歳になって巧さんに会ったら、こんな顔をするんですかね…」
「それは…僕は彼じゃないからなんとも…」