ほんの少しの勇気で人生って変わると思う 573
エリカちゃんが部屋のドアの鍵を開け、杏さんが入ってくる。
「おはようございます、匠さん…」
なんだかばつの悪そうな表情をしながら杏さんがオドオドとしながら部屋にやってきた。
ソコにいつもの凛々しい執事・杏さんの姿はない。
「ごめんなさい、朝目が覚めたら、部屋に匠さんの衣服があって…私、何も覚えてなくて…」
プレスしたみたいにちゃんと折り畳んだ、シャツとズボンを手渡してくれる。
こういうところはやっぱ杏さんだよね。
「気にすることないさ。そもそもオートロックシステムと知らづに部屋から出た僕がいけないんだから…」
「それでも、匠さんがチャイムやノックをなされも、私は気付くこと無く寝ていた訳ですよね…」
「まあそうだけど…僕もよくやっちゃうことだから、ホント気にしないでよ…」
毎回記憶を無くす気持ち悪さに、めちゃくちゃ反省しちゃうからね。
「本当にごめんなさい。執事としては失格でしょうね」
「いえ、むしろ僕は杏さんの人間味あるところが見れて嬉しかったですけど」
受け取った服を着ながらそんなことを言ってみる。
「あはは…そう言って下さるならいいと思います」
杏さんも苦笑いした。
「ちょうどいい時間ですし、服も着られましたから匠さんもエリカと一緒に朝食を食べにいかれてはどうです?」
弥生さんの作ったパンケーキかぁ…甘いものも僕は大好きだからね。
ちょっとノーパンなのは居心地は悪いけど、そんなことは我慢できる範疇だからね。
「香澄も行っているのかな?…」
昨晩は“おやすみ”も言えなかったからな…
「お嬢様はまだお休みですは…、先に寝室に立ち寄られますか?」
「うーん…無理に起こすのも悪いような気がするからなぁ」
…今も寝ているとなると、きっと昨夜は桜ちゃんとそれはそれは濃密なひと時を過ごしていたのだろう…本当にご馳走様でした。
「まあいいか…2人が自然に起きてくるのを待つよ」
「では、食堂に向かいましょうか」