ほんの少しの勇気で人生って変わると思う 542
「あんなに酷いことされておきながら…か」
匠は残り少なくなってきたグラスを一気に空け、手の甲で口元を拭った…
「酷いことって何ですの?…」
杏は小さなグラスでは物足りなくなり、ロンググラスに中身を移し替えた。
「ん…それは…」
ここで言うのは少し躊躇いがあった。
でも、杏さんはその続きを求めるような表情でこちらに視線を向ける。
「その…鈴田巧…なんだけどね、美恵子さんの命令…だっけな…全身を脱毛処理していてね」
「あ、それは違うは…」
僕の言葉を杏さんは遮るように否定した…
「えっ?違うって…このこと杏さんは知っていたの?…」
「ええ…美恵子さんはそんなことをされた息子さんのことを、酷く気にしていましたもの…」
「じゃあ、彼にそうさせたのは?」
「会長の宗次郎氏でしょうね…もしくはその奥様か…」
…鈴田巧が気の毒に思えてくる。
「彼はそのせいで、あまり人前には出たくないと思っているんです」
「じゃあ、次期社長といわれてるのにも、前向きではないでしょうね」
「ええ…特に女性関係の噂はあまり聞きませんからね…」
おっと;…ここにいる彩乃さんや澪さんが関係を持ったことがあると知ったら、杏さんはさぞかし驚くだろうね…
「それゃあ気の毒だけど、僕がマネキンみたいにツルツルだったら、人前でパンツなんて絶対下ろせないもんな…」