ほんの少しの勇気で人生って変わると思う 494
「ええ勿論ですよぉ。私ぐらいの年令の女性にとっては憧れの存在ですもの〜」
杏さんは声を弾ませ、僕に返した。
一方、弥生さんは僕に背を向けたまま反応を示さない…
「ねぇ弥生さん!確か弥生さんと同年代ですよねぇ?!」
杏さんは弥生さんを促すように声を上げた。
「え、あ、ああ、そうね…」
…なんだか、あまりいい印象ではない。
これは、杏さんがいる場面では話すべきではなかったのだろうか?
僕はそれ以上聞くのは、ここではやめておいた。
後々タイミングを見計らおう。
車はスーパーに着いた。
駐車場に停まり、降りて店の中に入る。
「これはこれは弥生さん、おっしゃって頂きましたらお届けに参りましたのに…」
店長のプレートを胸に着けた男が、いそいそとやって来た。
「お気遣いは嬉しいけど、ちゃんと自分の目で見て選びたいのよ…」
「料理人方は皆そうおっしゃっいますよね…さ、どうぞ!お荷物がございましたら、店員をお着けいたしますが…」
「いえ、結構です…荷物を持ってくれる人なら、こちらにいますから」
弥生さんが丁重に断ると、店長はスゴスゴと立ち去っていく。
「匠くん、杏ちゃん、行きましょうか」
「はい」
弥生さんの後に続きながら、杏さんに聞いてみる。
「弥生さんって、そんなに有名な人だったの…?」
「弥生さんと言うよりも、青山家そのもが凄いからよ…。
青山家の専属コックというだけで、あの人みたいに媚びを売ってくる人は多いの…」
杏さんは僕に忠告するように言い、続けた…
「匠さんもこれから気をつけて下さいね。青山家の一人娘と一緒になるんですもの、いろんな人が集まってくる筈よ…」
「いろんな人?…」
「上辺だけいい顔して、お腹の中では悪いことを考えてる人って、案外多いのよ…」