ほんの少しの勇気で人生って変わると思う 46
「桜ちゃんには連絡したの?」
「はい。10時に近くのファミレスで…」
…まだ家族の人間、誰も起きてこない。
休みだからいいけどね。
「お袋もまだ起きないだろうし、朝飯作っちゃおうかな」
「あ、私も手伝いますー」
君は一応お客様だから…
…でも、香澄ちゃんの腕前、ちょっと見たい気もするなぁ。
「じゃあ、一緒にいいかな?」
「はぁ〜い♪」
コンコンと野菜を刻む香澄ちゃんのスピードに、驚く。
あり合わせの材料を使い、手際よくフライパンを扱う腕は正にプロ級だった。
…すげぇ!
やるとは聞いていたけど、まさかここまで出来るとは思ってもいなかった僕は、ただただ見惚れた。
「す、すごいよぉ香澄ちゃん!言っていたことは嘘じゃなかったんだぁな!」
「もちろんですよぉ。こんな日が来ることを夢みて、ちゃんと教わったんですからぁ」
澄ました感じで答える香澄ちゃん。
しかし、その笑顔は本当に嬉しそうだった。
「誰かに褒められるって、人生で初めてかも…」
そう呟く香澄ちゃん。
「(ん…)」
手際よく調理していく香澄ちゃん、しかし、その瞳からぽろぽろと涙がこぼれ落ちているのを、僕は見逃さなかった。
…なんて純真無垢な子なんだ…
僕は何て言葉を掛けたらいいかも分からず、横からそっと肩を抱いた。
グス…
鼻頭を赤くした香澄ちゃんが僕の眼を見つめてくる…
自然と近づいていく顔と顔…
ガタ!!。。。。
「あ、すんません…トイレ行こうと思って…何か邪魔しちゃいました?」
頭をポリポリとかく、啓くん…
…君のテント、まだ収まってないですけど…
つくづく君って、タイミングが悪いよ。
啓くんはばつの悪そうな顔をして、そそくさとトイレに駆け込んだ。
「すいません。取り乱しました」
香澄ちゃんが言う。
そして、僕のほうを向いて、不意に唇を重ねてきた。
「匠さんの何気ない優しさが、大好きです」
頬を赤くして、そう言った。
…本当に可愛い娘だ。