ほんの少しの勇気で人生って変わると思う 43
…ん? お袋、どうかしたのか?
話題を変えようとしてません?
青山家といえば知る人ぞ知る名家であり、確か数十年前に北欧の皇室から嫁いできた姫儀がいるとか、いないとか…
まさかな…
確かに香澄ちゃんはハ一フと言ってもおかしくは無いけど、そんなお偉いお家のお嬢様が、こんな所で大飯食ってる訳ないもんね…
…まあ、今はちょっと深く考えるのはよしておこうか…
―夕食を盛り付けたお皿はあっという間に空になった。
香澄ちゃんはもちろんだが、うちの妹三姉妹もよく食べるのだ。
その一方で、啓くんはちょっと少食のように見える。
「ご馳走様でした!とても美味しかったです!」
「あらあら。まだデザートがあるわよ〜」
お袋、こういうときは腕をさらに振るうからなぁ…
―湯槽につかる僕と啓くん…
甘いケーキを食い終わるやいなや、酔いが回った親父に、どうしてもリフォームしたバスルームを見ろと言われ、今に到る訳で…
「何かごめんな、親父は酒が弱いくせに結構飲むんだよね。」
「いえ、こちらこそです。お父さんはお兄さんと一緒に入りたかったんでしょうに、邪魔しちゃって。」
…"お兄さん"って、ちょっと照れるよ。。
「邪魔ってことも無いよ。親父はあんな状態だからさ」
僕はドアに向けて親指をくいくいと動かす。
親父はというと、脱衣所でイビキを立ててやがる…
まったく、これが生徒から人気のある教師の姿かよ。
僕も啓くんも苦笑いする。
「そういえば、香澄さんって…」
啓くんが切り出す。
「ああ、相当なお嬢様らしいよ」
「そうですか」
正直、ここまでつながりがあるとかえって気味が悪いというか。
「もしかして、啓くんの住んでいるお屋敷とやらで、香澄ちゃんに会ったこと、あったりして?」
僕は湯に浸したタオルを頭に、恐る恐る尋ねる。
「いえいえ、お屋敷の人と僕なんかが顔を合わせることなんてありませんよ。」
…お屋敷の人って、そんなに偉い訳?
「執事さんやメイドさんなんかは、毎日顔も合わせるでしょうが、僕はただの庭師の息子ですから。」
…やっぱ、メイドさんのいる世界なんですか・・・