ほんの少しの勇気で人生って変わると思う 412
「それはもう過ぎたことです…これからどう啓くんに向き合っていくかが大切ですよ…」
僕はゆかりさんに向き返り、目を見て微笑んだ。
「そうね…啓にとっての母親は…私一人なんですものね…」
ゆかりさんも微笑み返し、“ありがとう…”と囁くと共に、僕の身体を包み込むように抱きしめてきた…
ゆかりさんの身体はとても暖かく、優しかった。
その暖かさも包容力も、よき母親の感じそのものだった。
「もちろん、ゆかりさんの今後の対応の仕方もありますけどね」
「ええ、私も頑張るわ…母親としても、匠くんの上司としてもね」
「あ、それじゃあ会社を辞めるっていうのは?…」
「もちろん今までみたいに出張三昧って訳にはいかないけど、その分、匠くんに頑張って貰わないと!」
「は、はい!僕、頑張ります!」
「…それじゃあ、普段でも着古したトランクスなんか掃かないで、ちゃんと我社のパンツを掃くところから初めてちょうだい…」
ヤバ;…あの何年も掃いているトランクス、見られちゃったのかよ;…
「試作品や在庫があるし、できればそれを穿いて出社してほしいところね〜」
…そんなにあるんですか。
ゆかりさんや夏子さんならそれが愛社精神だとか言いそうでなんだかアレですが。
兎にも角にも、啓くんをめぐる一連の問題は少しずつ解決の方向に向かっていくのであった。
結局、股間に食い込む窮屈なパンツを掃いたまま、ゆかりさんの手料理をご馳走になり、啓くんの部屋に泊めてもらう…
「そういばお兄さん…涼香ちゃんと結婚したら、僕のお兄さんってことになるんですか?それとも弟ってことになるんですかね?…」
「ふへぇ?…」
横に寝る啓くんの言葉に、確かに考えてしまう…
涼香は啓くんの妹だから、肩書き上は僕が弟ってことになるんだろうか?…