ほんの少しの勇気で人生って変わると思う 411
そう言って項垂れる啓くん。
「それに、今思うと、梓が言ったことのほうが正しい気がしてきたんです」
「アイツ、なんて言ったんだ?」
「『啓は現実から逃げてる』『お父さんは啓を捨てた、お母さんは計と向き合おうと努力してる。どっちについていくか迷うことがおかしい』『いつまでもうじうじするな』って…今思うと確かにそうだなって…でも、あのときの僕は、ただ腹立たしくなって…」
梓のお節介が招いた悲劇なのか…
「図星を刺されて、こんちきしょうってやつだな?…」
「はい、今になれば分かることなんだけど…あの時はカッときちゃって…」
分かるよ…梓は頭に血が登ると、言い方もきつくなるからな…
「アイツも悪かったんだと思うさ、今の啓くんにはまだ、叱咤は辛いということぐらい分かるべきだったと思うよ」
「はい…でも悪いのは僕なので…やってしまったことは事実ですから」
「まあ、そこはな」
風呂を出て脱衣所で身体を拭く。
ゆかりさんが用意してくれたのか、僕が着る寝間着が置いてあった。
啓くんは自分の部屋に戻っていく。
「匠くん…」
心配そうな顔をして、ゆかりさんがやってきた。
僕は慌てて真新しいパンツを引き上げる…
「あ、ごめんなさい…それ会社の試着品だけど…」
「なんかすいません、下着まで用意していただいちゃって;…」
「そんなことは構わないはよ。男性用下着ならご満とありますからね…それより、どうでした?…」
まだ雫が着いていたのだろう…ゆかりさんが僕の背中にタオルを宛てがいながら聞いてきた…
「ええ、本人は後悔の気持ちが大きいみたいです。謝ろうと考えているようですし、僕も妹にそう言おうと思ってます」
「そう…ごめんね。匠くんにも、妹さんにも嫌な思いをさせてしまって…」
「いえ、そんなことは…」
「元は、全部私が至らなかったから起こってしまったのよね…」