ほんの少しの勇気で人生って変わると思う 389
鼻を赤く染め、涙によりマスカラを流すゆかりさんに、僕はハンカチを差し出す。
「匠くん…」
「さあ、ゆかりさん…ほんの少しの勇気で…これからの人生が変わりますよ…」
僕はさっきゆかりさんがくれた以上の満面の笑みを、ゆかりさんに返す。
「流石お兄さん、いいこといいますぅね〜…だけど僕の母さんを口説かないでぇくださいよ〜」
ハニカミながらおちゃらける啓くんは、すっかりと元の啓くんに戻っていた。
ゆかりさんは一歩前に出て、啓くんの肩をそっと抱く。
「啓…今まで、ごめんなさい…こんなお母さんでも、いいなら…」
啓くんはゆかりさんの体を抱き返す。
「何言ってるんです…僕の母さんは、あなたしかいないんですから…」
「啓…」
ゆかりさんは啓くんの胸の中で子供のように泣きじゃくった…
そんな2人を残し、夏子さんと僕はそっと部屋から出る…
「なんか感激しちゃったな…」
髪をかき上げる夏子さんの眼は、赤く充血していた…
「はい…啓くんが大人で…驚きました。」
僕も白らんでくる鼻孔をツンとかんだ…
「ねえ、飲みに行かない?…」
「はい!僕もめちゃくちゃ飲みたい心境です!」
夏子さんが仕事を早めに切り上げ、僕も一緒に歓楽街へと繰り出した。
その夜はお互い、飲みまくった。
自分が酒に弱いことも忘れるくらい飲んだ。
「夏子さん…旦那さんは…お子さんはいいんです?」
「今日はいいの!匠くん、どんどん飲みなさい!」
「ふぁい、こんなに美味い酒を飲むのは、久ぁしぶりっす!…」
僅かに呂律が回らなくなっている自分に気づきながらも、イケメンバーテンダ―が差し出すカクテルグラスを一気に飲み干す。
「ふふ、知っる?…それジュースみたいだけど、アルコール度数…目茶苦茶高いのよぉ〜」
夏子さんは目を細めて、嬉しそうに笑った…