ほんの少しの勇気で人生って変わると思う 364
…まあでも、犠牲になったのがそれだったら、不幸中の幸いなのかもしれないよな。
宏には申し訳ないのは変わらないが。
「あいつのお姉さん、今度行く会社に勤めてるんだ」
「へぇ、遥ちゃんが?良かったじゃない!」
「うん、実は入社にあたっても、いろいろ世話になったんだよね…」
夕べの残りだろうか?脂の乗った焼き魚は目茶苦茶旨かった…
「へぇ〜遥ちゃんは昔から面倒見がよかったもんね〜…」
「ああ、この歳になって、また面倒掛けるとは思ってもいなかったよ…」
厚焼き玉子を頬張る…お袋の味と言って先ず思い出すのは、これかもしれない…
「よかったじゃない…知ってる顔がいて」
「うん、まあね…」
遥さんは人事部で、僕は営業部なんですけどね。
朝食を平らげ、リビングのソファーに腰を下ろす。
残り物とはいえ、お袋の味は変わらない。
「匠…今日は暇?」
「今のところ予定はないけど…どうした?」
「掃除、手伝って欲しいのよ…」
「掃除?…別にいいけど、大掃除でもするつもりなの?…」
「古い物をいろいろと整理したいとずっと思っていたのよ。」
「古い物?…」
「ええ、納屋にある使わなくなったものとか、お義母さんのものとか…」
ずっと同居していたばあちゃんは、二年前に亡くなった。
あの時は仕事が忙しくて、通夜にも葬儀にも帰ってくることが出来なかった。
ばあちゃんの墓にも手を合わせたことがない。
…幼い頃はずいぶん可愛がってもらったから、心残りだった。
「そうか、じゃ手伝うよ」
「ありがと」
力仕事は男の手がないとね。