ほんの少しの勇気で人生って変わると思う 344
「まあ…ね。あまり大きな声では言えないけど」
それ以上は聞かなかった。
…きっと、そういう関係なのだ。
何もかも愛があればいいわけではないのが現実だ。
「匠くんは、彼女いるの?」
「ええ…まあ…」
香澄ちゃんの笑顔が浮かぶが、はたして彼女と言っていいものか…?
胸を張って彼女だと公言できるようにさせる為にも、一日も早くことをはっきりさせなければ…と思う。
「どうした?…何か訳ありなの?…」
「いえ…そういう訳では…」
僕は脂の乗った鰻に食らい付き、話しをごまかす…
小首を傾げる遥さんは可愛らしい。
香澄ちゃんという存在がなければ、遥さんにアタックしていたかもしれない。
「お互いに頑張らないとですね」
「匠くんはチャンスいっぱいあるからいいじゃん」
「そんなことは…」
「君の部署は花盛りだぞ〜、選びたい放題なんだぞ〜」
「はい、可愛い子ばっかりで驚きましたよ…」
「白鳥部長はじめ、ホントあそこは美女ばかりだもんね〜。匠くんをうらやましがってる男子社員も多いのよ〜」
「そうなんですか?…男がいないで困っていたって聞きましたけど…」
「ううん…転部を希望する男の子は多かったのよ…でもなかなか皆が気にいった子が見つからなかったのよ…」
ああ…確かにゆかりさんは、僕をはじめとするパンツ姿の写真を、山のように持っていたよな…
まあ、他の男性社員がダメで僕が選ばれたのも未だになぜなのかわからないんですけどね。
「匠くんは選ばれし勇者なのだよ」
「RPGじゃないんですから」
ただ、責任重大、プレッシャーは感じますがね。
「まあ、白鳥部長も、夏子さんも、みんないい人だから、萎縮することはしなくていいよ」
「はい」
話しているうちに、すっかり夕食を食べきってしまった。