ほんの少しの勇気で人生って変わると思う 335
「あれっ?…誰か来た?」
ぅあ…結構観察眼が鋭いでは無いか;…
「ど、どうして分かったんだよぉ?」
「それゃあ分かるはよ、凄いいい香りが漂っているもん〜…女の子ね?」
流石、我妹だけのことはある…鼻も効くんだね…
「皆には言うなよ…いろいろうるさいからさ…」
「わかってるよ。お互い様だもん」
「お互い様、って?」
「兄ぃと一緒だよ…葵姉ぇも、梓も、私も、お父さんお母さんがいないときに彼氏連れてきてるもん」
…おぉ、そういうことか。
思えば、妹たちもそういう年頃になったんだよな。
これは、お袋にはともかくとして、親父が知ったらすごいショックだろうな…
「でもさ、それなら啓くんみたいに、栞も皆にオープンにすれゃ―いいのに…」
テーブルに出しっぱなしになっていた麦茶を飲みながら言う。
「ああ啓くんはもう家族みたいだもんね…私も弟が出来たみたいで嬉しいんだ…」
おお栞、お前もか!
皆に可愛がられて、啓くんってホント幸せもんだよね…
啓くんと涼香さんの関係や、青山家と伊藤家を含めた諸々のことを知らなければ手放しに喜べる状況では間違いないのだが。
…いけない、どうしてもネガティブに考えてしまう。
ガチャン
玄関の扉が開く。
「匠、栞、手伝って〜」
お袋の声だ。
また大量に買い物してきたのか、栞と苦笑いしながら玄関に向かうのだった。
一息ついて自分の部屋に戻る。
萌ちゃんとの残臭が部屋中に篭もっていて、僕は慌てて窓を開ける…
床に散乱したままの丸まったティッシュの数々が、ことの激しさを象徴するようで、思わず苦笑いを浮かべてしまう…
生々し過ぎて、こんなもん家族に見られる訳にはいかないよな…
僕はまだ湿り気をもったティッシュの数々を拾い集める。