ほんの少しの勇気で人生って変わると思う 297
「そうなんだぁ、匠くんはスタイルがいいから何を着ても様になるんだな…」
伊藤さんにそう言われると、なんか厭味に聞こえますけど…;
「僕なんて伊藤さんに比べたら全然ですよ…もう運動も全くしてないし、だから筋肉だってすっかり落ちちゃいましたからね;…」
「昔は何かやってたのか?…」
「高校までは部活で運動部に入ってましたし、大学生の頃は肉体労働のバイトやってたんで…まあ」
「そうだよなぁ、社会人になって暇がなくなると体が鈍るもんなぁ」
「ええ、ホントに」
伊藤さんがクローゼットを開ける。
「もう着なくなったからね。好きなのを選んで持って行っていいよ」
「うぁ凄い数ですね。どれでもいいんですか?…」
「ああ、とりあえずサイズが合うかどうか、試着してみろよ。」
「はい、それじゃ遠慮なく…」
僕は手前にあるスーツから上着を手に取った。
「ワイシャツやネクタイもあるからな、そうだ和彦に貰った下着もあるからやるよ…」
「和彦さんにですか?」
「ああ、何でも奴の会社に男物のパンツだけを扱う部署があるらしいさ…」
…それも知っていたんですか。
来月から僕、そこの部署の一員になるんですよね…
そして上司は貴女の元妻ですよ?
…なーんて、言えるわけがありません。
手に取った黒のスーツの上着を羽織ってみる。
「あ、ちょうど良いですね」
「みたいだね。気に入ったらいくらでも持って行っていいから」
「ズボンも穿いてみるといいよ。あ、ついでにコレも着けてみるといい。」
両手いっぱいに抱えたパンツの山…
確かにそれは、昨日会社で見たモノと大差はなかった。
「啓にもやったんだけど、流石に普段穿くにはって言ってな…」
それを僕に穿かせるつもりですか?…;