ほんの少しの勇気で人生って変わると思う 298
「会社で開発した試作品を和彦がもらって穿くこともあるんだってさ」
…うおぃ、マジですか…
「伊藤さん、普段これはきますか?」
「まあ…たまにかな」
…これだけあると、少し持って行くべきだろうか。
うちの家族からは好評だからなぁ。
「涼香と朝食をとるから、しばらくここで吟味しててよ」
伊藤さんはそう言って、部屋を出て行った。
"吟味"と言われても、僕にそんな見る目もないし…
スーツだってパンツだって、どれも同じにしか見えないんですけどね;…
取りあえず1人になったことだし、伊藤さんの部屋を物色してみる。
結構かたずいた部屋…息子の啓くんとは大違いなんだな。
本棚にはワイン関連の本のほかに、料理に関した書籍も並んでいた。
伊藤さんはご自分で料理もされる方なのか。
…あの見た目でそっちも得意だったらさぞかし女性にモテるんだろうなぁ。
庭師として使う道具はここには並んでいない。
おそらく外に置いてあるのだろう。
啓くんに遺伝しているという例のコレクションはいったいどこに?
男として完璧とも思える伊藤さんの、唯一恥ずかしいと思えるあの趣向…
僕にその趣味は無いと思うけど、それでもそれを僕は探さないではいられ無かった。
それは、男としては恥部ともいえるだろう痕跡を確認さえすれば、僕は男としてどこか安心でき、伊藤さんをもっと近くに感じられる…そうどこかで思ったからだ。
本棚の最下層、机の引き出しの奥、探していたがそういうものは見つからない。
「となると…残りはここか」
鎮座するベッドの下を覗き込むと、奥に段ボール箱がひとつ。
…男はいくつになっても変わらないんだな、僕はそう思った。
ベッドの下に身体を入れ、手を伸ばし、その段ボール箱を開けると、予想通りのものが出てきた。