ほんの少しの勇気で人生って変わると思う 286
「は、はは…そうですか、何か悪いなぁ…」
少し居心地悪そうに、伊藤さんが照れ笑いする。
「まあまあ、もうすぐ出来上がるので、下で待っててくださいね」
お袋はニコッとしながら言って部屋を出て行く。
「ここまでだな。今日はご馳走だしなぁ」
親父もボトルを持って部屋を出る。
「こりゃ、今日は臨時休業だなぁ」
「仕方ないですね」
伊藤さんと目を合わせ、お互いに笑うのだった。
結局飲み過ぎた僕は、いつものように記憶をなくし…伊藤さんの腕の中で眠っていた…
…てかおい!
なんで伊藤さんが僕のベッドで寝てんだよ?…
「あれぇお兄さん起きました?」
啓くん…どうでもいいけど、何で男三人で狭いベッドに寝ている訳よ;
「伊藤さん帰れなかったんだぁ…」
「車ですしね…歩いても帰れない距離じゃないんですけど、ここに上がって来るのも精一杯でしたよ。」
「ははは、伊藤さん案外弱いんだな〜」
「ぉ前が言うなぁ…」
…啓くん、今何か言った?
まあいいか。
それにしても親子2人ともここで寝るってねえ。
しかも伊藤さんも寝相悪いなぁ…
その姿を見ていると呆れて笑えてしまう。
「父さん、何話してました?」
「ごめん、僕もよく覚えていない」
啓くんも苦笑いする。
…そんな啓くんに、思い切ってあることを聞いてみようと思った。
「なぁ、啓くん、お母さんの名前、覚えてるか?」
「なんです?いきなり…」
「あ、いや;…“啓”って珍しい名前だから、お母さんの名前から取ったのかと思ってさ…」
突先の嘘にしてはなかなかだった…;
「母さんの名前には関係してませんよ…どちらか言えば父さんの名前かな?…」
ほお。
「父さんも名前は漢字一文字で『宏』なので。僕もその流れを汲んでいるのでは、と思います」
…それは家も同じだ。
親父、お袋、僕、妹3人、全員漢字一文字だもんね。
「で、母なんですけどね」
「うん」
「確か、名前は平仮名だったと思います…それぐらいしか…」