ほんの少しの勇気で人生って変わると思う 280
離れの裏側に車庫があり、そこに一台のセダンがとまっている。
これが伊藤さんの車か。
家同様普通の車で、内心ホッとする。
「それじゃあ行くか」
「お願いします」
啓くんが助手席、僕は後部座席に座り、車が動き出す。
「今夜のバーテンの仕事はよろしいんですか?」
片手でハンドルを切る伊藤さんは格好よかった…
「ああ、仕事と言っても自分の店だから自由は効くんだ…まあ自分の店と言っても、金を出したのは和彦だけどな…」
伊藤さんって、和彦さんのこと呼び捨てできる仲なんだ…
「柏原くんは、和彦に会ったことはあったかな?」
「ええ、まあ」
…本当のことは言えないけれども。
「伊藤さんと和彦さんは、どういった関係なんです?」
「ああ、あいつは僕の後輩でね」
…ほお
そうやって、繋がっていくんだな…
「時代が時代なら殿と庭職人の関係だから、“和彦”なんつ呼び捨てたら打ち首かもしれないけどな」
そうか、伊藤さんの家って代々青山家に支える庭職人なんだよな…
「和彦さんとは子供の時から?…」
「いや、それこそ子供の時は同じ敷地内にいながら顔も知らなかったさ…」
「もしかして…後輩って…」
「ああ、あいつの高校の一つ上の先輩なんだよ俺…」
…ああ、そこで繋がるんだ。
そうすると、伊藤さん、親父やお袋のこと知ってるんじゃないか…
「部活も一緒だったんだよ」
「何やってたんですか?」
「野球部さ。結構厳しかったんだけど、あいつが一番真面目に着いてきたからなぁ…」
伊藤さんは当時を懐かしがる。