ほんの少しの勇気で人生って変わると思う 278
…今日みたいに若いコたちの中に入ると気後れもするけどね。
自信を失ったらその時点で試合終了だからな。頑張らねば。
軽くシャワーを浴びて、浴室を出る。
私服に着替えた啓くんと、椿ちゃん。
さらに…
「君が柏原くんかい?」
伊藤さんの姿もあった。
「あ、初めまして。先日はお留守中に泊まらせて頂き、ありがとうございました。」
僕は濡れた前髪をかき揚げながら、頭を垂れた。
「いやぁ、家の啓こそ毎日のようにお邪魔しているそうで、申し訳ない…」
白い歯を輝かせる伊藤さんは、いかにも女にモテそうな雰囲気を醸し出していた。
「いえ、うちの妹と付き合ってるそうなので、家では家族同然ですよ」
「そうなのか、悪いねえ」
人の良さを感じる笑顔だ。
何処と無く啓くんも通じるものを持っているような気がする。
そこは親子だろう。
「お仕事、忙しいんですか?」
率直に聞いてみる。
「ああ、ここは広大な土地だからね…」
確かに庭だけでも、ヨーロッパの宮殿にあるみたいだもんな…
「あ、そう言えば…夜は別の仕事をしているとか…」
「ああ若い頃、バーテンダーに憧れてね。そんな真似事を夜な夜なしてんだ。」
「海外にも行かれてるとか」
「まあ、いろいろとね」
僕の『育ての』親父に負けず劣らず、仕事に一途で真面目でいい父親だと思う。
啓くんからも悪い話は聞かなかった。
だとすると、やはり問題は母親なのか。
その答えを知りたいけど、ここで言うのは憚られた。