ほんの少しの勇気で人生って変わると思う 275
「いろいろ言われるって…周りの奴らが言うのか?」
「多分僕が母さんに未練を持たないように言ってくれたんだと思うんですよ…悪い母親だったと思えば、諦めもつきますもんね。」
笑いながらも俯き加減に小石を蹴る啓くん…
こいつは思った以上に、寂しい思いをしてきたんだな…
それを思うと、本当のことを言ってやりたい気にもなるし、逆に憚られる気もしてくる。
…啓くんにとってどちらがいいのだろう。
電車に揺られ小一時間、家のある町まで戻ってきた。
啓くんが違う道を指差す。
「こっちじゃないの?」
「僕らの住んでる離れには、こっちの裏口のほうが近いんですよ」
使用されていないのだろう。
錆びた門を飛び越え、獣路さながらの細い山道に分け入っていく啓くん…
なんだか"探険ごっこ"みたいだよな.
僕は童心に戻ったようなわくわくとした心中で啓くんに続く…
「ちゃんと着いてきてくださいよぉ。逸れると迷子になっちゃいますから。」
確かに…こんな樹海みたいな深い森で迷子になったら、厄介だよな…
広大な敷地に、もうなんでもアリといった感じなのか。
道なき道を進みながら思う。
…スーツ姿でここに入ったのは間違いの気もしないが。
「めったに使わなさそうだな」
「普段は自転車なんで、正門から入ってもそう時間はかからないんですよ」
…自転車使わなかったらどのくらいになるのよ。
「見えてきましたよ」
鬱蒼とした視界が開けて、見覚えのある離れの建物が見えた。
「ここから見ると、まるでホ―ンテッドマンションみたいだな…」
「古いですからね。もしかしたら本当にお化けが住み着いているかもしれませんよ…」
「毎晩酒盛りしに来る魔女たちとか…啓くんのちんぽを吸いに来る吸血女とか?…」
「ははっ、お兄さんも言いますね〜;…この時間だとまだ忙しい時間ですから、メイドさんたちは来てはいないですよ,,」