ほんの少しの勇気で人生って変わると思う 209
「元気にしてたか?…」
「親父とお袋によろしく言ってたよ…」
「そうか、卒業以来会ってはいないからな…」
「僕のこと…知らないんだって?…」
「ああ、それに関しては父さんが悪かったと今でも思っている…」
「なんか訳があったんだろ?…」
「怖かったんだ…初めは妊娠を教えると、母さんを奪われそうで…
お前が産まれてからは、嫡男がいない青山家が黙っているとは思えなくてな…」
…言葉が出ない。
やっぱりこの人は、血の繋がり以上に僕の親父だ。
僕を、そしてお袋を守るために、青山家には何も教えず、今まで本当の親のように僕を育ててくれた…
親父以上に、人生において感謝すべき人はいなかった…
感窮まって潤む瞳を隠すように、湯船のお湯をバシャっと顔に浴びる…
横で親父も同じように、顔を拭っていた…
「時期を見付けて、青山と三人で飲まなくちゃな…」
飛沫と共に立ち上がる親父の双玉は、熱で伸びていた…
親父のここで作られた"種"で産まれてきたかったぜ…
僕は心底そう思った…
「…ありがとう、やっぱり親父は親父だよ…血の繋がりなんて関係なくてもな…」
「言っただろ…礼なんていらないって…」
お互い、目頭が熱くなっていたのは明らかだった。
「まあでも、青山のことは悪く思わないでくれ。彼奴も、お前を見捨てるつもりはなかったはずだからな」
「わかってるよ」
そりゃあ10代やそこいらだったら、和彦さん始め、お袋や親父のことすら恨みもしたかもしれない…
でも僕はもう充分に歳を重ねていた。
湯面の上から股間を見下ろす…
男の大半は仮性包茎とは知らずに、親父に相談したあの頃が懐かしく甦る。
考えてみると…身籠ったお袋を愛し、腹の中の僕の父親になることを決断したあの頃の親父よりも、今の僕は歳上なんだ。