ほんの少しの勇気で人生って変わると思う 191
「ええ、杏ちゃんは私やお父さんにとっては娘のような存在よ。杏ちゃんがどうかした?…」
「彼女、今青山家で働いてるんだ。」
「まあ。本当に?…」
「ああ、挨拶に来たいけど、親父やお袋に会わす顔が無いって…泣いてたぜ…」
「もう、そんなことないのに。いつでも遊びに来ていいのよ、って伝えてほしいわ」
「そっか」
「杏ちゃんは何をされているの?」
「香澄ちゃんの執事をやってる」
「まあ…確かに、杏ちゃんは背が高くて、男の子みたいなところもあるしね…」
昔を懐かしむお袋に、笑顔が戻った。
「杏ちゃんも…僕が親父の子じゃないって、知っているんだ…」
「杏ちゃんが?!…まさか弥生が?…」
「そうじゃないよ。弥生さんはそんなこと軽々しく話すような人じゃないさ…」
「そうよね…弥生がそんな子じゃないって、私が1番分かっていたはずなのに…」
…まあ、杏ちゃんははっきりとその話を聞いていたわけではないのだけど。
ただ、話の核心は知っていたはず。
「…葵、栞、梓の3人は親父の子なんだよね?」
「ええ…それはね」
…妹たちもこの事実は知らないだろう。
「そん時…堕ろそうとは思わなかったの?…」
いくらその宿った命が自分のこととは言え、聞かずにはいられなかった…
自分の高校時代だって、よく知りもしないそんな輩に、カンパした覚えはあった。
高校生で身篭ってしまったその大半は、産むという選択は取らないと思っていた…