ほんの少しの勇気で人生って変わると思う 189
「そうよね、早くしなくちゃ梓や啓くんが帰って来ちゃうはよね…」
「ああ、あいつらがいると、話しが掻き回されそうだよ…」
「若いから仕方ないけど、尾鰭がついて皆に伝わるのだけは避けたいは…」
お袋は湯気の立ち登るマグカップを僕の前に置いてくれる…
「…匠、あんたは、父さんじゃなくて…その、青山くんの、子なのよ…」
青山くん…って、和彦さんの?
…いや、確かに、親父とは全然似てないとは思っていたけど、マジか…
「今まで黙っていて、ごめんね」
お袋の声は震えていた。
でも、僕は異常に冷静だった。
お袋にも、親父にも、そして和彦さんにも…怒りや憤りは感じなかった。
心のどこかで、そうじゃないかと思っていたのだと、今更にして気づく…
そう思うと、今まで弥生さんや杏さんに聞いていた話しが、パズルのラストピースのように繋がった…
それでもふに落ちないことはあった…
「もしかして、和彦さんはこのことを…」
「ええ…青山くんは何も知らない…知っているのはお父さんと弥生だけなの…」
「そ、そうなのか…」
「ごめんね、匠…」
もう泣かなくていい、僕はお袋の背中を優しく摩った。
…葵、栞、梓…それに、香澄ちゃんも僕の妹になるのか…
そう思うと、さっきの別れ際に香澄ちゃんが言った「お兄ちゃん」という言葉に、別の意味も感じた。
「母さん…僕が連れてきた彼女が、青山家の娘だって分かって…驚いただろうね…」
「ええそれはもう…弥生に言われたように、もっと早くに教えておくべきだったと悔やんだは…」
「だけど参ったな―…僕は実の妹と寝ちまったんだぜ…」
「それは違うの…香澄ちゃんは青山くんの子供ではないのよ…
これは涼香さんに聞いたことだから…間違いないは…」