ほんの少しの勇気で人生って変わると思う 188
「話す前にさ、ひとつ聞いていいかな?」
お袋が僕に対して言った。
「うん、何?」
「弥生…元気にしてた?」
十年近く会っていなくても、親友のことは気になるのだ。
「うん、元気だったよ」
「よかった…ここを去る前は、お姑さんにきつく当たられてたのか、私を見るたびに『死にたい』なんてネガティブになっててね…」
弥生さん、そんなだったのか…
「僕とのことが原因で、疎遠になったんだろ?…」
「あら、それは違うは…私は弥生と匠があのまま一緒になっても、いいとすら思っていた…」
「なら、なんで…?」
お袋はゆっくりと紅茶を注ぐ…
「あえて言うなら…弥生はあんたを愛していた……
それで私は…お父さんを愛していた…ってことだはね…」
そのままでも…か。
あの時は、僕だって同じことを考えていたよ。
でも、弥生さんは、自分で、別れるっていう道を切り開いて、夢に向かっていったんだ…
「でも、いいんだ」
「弥生のこと、好きじゃなかった?」
「いや、弥生さんのことは今でも好きだよ。でも、今の弥生さんは幸せそうだから。可愛い娘さんもいるし」
「子供、出来たのね…ホント良かったじゃない…」
お袋の目に光るものが見えた。
「本当のこと言うと…弥生の言っていることの方が正しいのは分かっていたの…
それでも匠に真実を知られるのが…怖かったの…
だから弥生に…匠の前から消えてって…泣いて頼んだの…」
「えっ?…弥生さんは自分の夢を叶える為に僕と別れたんじゃ…?」
「もちろん、それもあったのよ。私は弥生の夢のことも知っていたし…でも、匠と弥生がこれ以上関係を深めると、その事実まで知ってしまうんじゃないかと思って…弥生にも悪いことをしたと思ってる…」
…複雑な事情があったのか…
「それで、その真実って…」